誰かに相談したかった
白川津 中々
◾️
誰にも相談できなかった。
早朝、公衆トイレに入り、激痛の中、声を抑えて、耐えて、子供を産んだ。女の子だろうか、必死に泣き叫んで、生きようとしているのが分かる。
「ごめんね」
そう伝えて、鼻と口を覆う。手の平の中で柔らかい唇が動いている。
暖かく、命がそこにあるというのが実感できた。
けれどその命は私にはいらない。誰も望んではいない。体を売ってお金を得ている私に子供なんて育てられるわけがない。生まれてくる子供だって私なんかに……
違う、それは私の解釈だ。手の中でもがいている命は生きようとしている。何も分からないままに……
……
子供の動きが止まった。だんだんと冷たくなっていき、少しだけ、軽くなったような気がした。
「ごめんね」
誰に対して謝っているのだろう。抱えている死体にだろうか。だったら無意味じゃないか。許すも許さないも、もう応えてくれはしないのに。
「ずっと一人なんだもん……無理だよ……」
誰にも、相談できなかった。
誰も助けてくれはしない。だから、私はこうするしかなかった。
誰かに相談したかった。
誰かに助けてほしかった。
誰も、いない。
私には、誰も……
冷たく、硬くなった子供を抱きしめる。
さようなら、ごめんね。
誰かに相談したかった 白川津 中々 @taka1212384
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます