誰かに相談したかった

白川津 中々

◾️

誰にも相談できなかった。


早朝、公衆トイレに入り、激痛の中、声を抑えて、耐えて、子供を産んだ。女の子だろうか、必死に泣き叫んで、生きようとしているのが分かる。


「ごめんね」


そう伝えて、鼻と口を覆う。手の平の中で柔らかい唇が動いている。


暖かく、命がそこにあるというのが実感できた。


けれどその命は私にはいらない。誰も望んではいない。体を売ってお金を得ている私に子供なんて育てられるわけがない。生まれてくる子供だって私なんかに……


違う、それは私の解釈だ。手の中でもがいている命は生きようとしている。何も分からないままに……


……


子供の動きが止まった。だんだんと冷たくなっていき、少しだけ、軽くなったような気がした。


「ごめんね」


誰に対して謝っているのだろう。抱えている死体にだろうか。だったら無意味じゃないか。許すも許さないも、もう応えてくれはしないのに。


「ずっと一人なんだもん……無理だよ……」


誰にも、相談できなかった。

誰も助けてくれはしない。だから、私はこうするしかなかった。


誰かに相談したかった。

誰かに助けてほしかった。


誰も、いない。

私には、誰も……


冷たく、硬くなった子供を抱きしめる。

さようなら、ごめんね。

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