第7話
かといって、何かが変わるわけでもなかった。僕たちは僕たちなりに付き合っていった。正面からぶつかり合った。いっぱい、思い出を作った。
「ねぇ、十彩君」
「ん?」
「私はさ、十彩君がいない世界を生きていくことになるんだよね」
「そういうことになるね」
「……生きて、いけるかなぁ」
心配そうに、離れたくないというように心橙が僕の手を握る。
「大丈夫だよ。ずっと僕のこと思い出せばいい」
「……そっか。頑張るね」
でも、心橙はどこか寂しげな瞳を浮かべていた。
――そっか。いつも、僕は自分のことばかりだ。周りの人にどんな影響を及ぼすかとか、全然考えられてない。お母さんに、何を遺せる? 心橙には、何を遺せる?
自分が、惨めになった。
何をしたらいいんだろうね。どうしたら、僕は「生きた」という証を遺せるのだろう。
そもそも、生きた証って何だろう? 僕はそれを遺すことができるのかな。できたら、いいのに。この問いの答えは、どうやったら求められるのだろうか? そもそも、求められるものなのだろうか……。
あぁ、なんで僕はこうなのだろう? たった一人の愛する人のそばにさえいられないのは何故? 自分が惨めに思えてしまうのは何故?
――結局、僕が幸せになるには君のそばにいるしかないのかな。もう、君の顔さえも曇ってよく見ることができないのに。僕に、君の側にいる資格はあるのかな?
なにか、返したい。返さないと気が済まない。返すから。最愛の君に。君だけに。
――だから、君の側にいてもいいですか? 君は、笑って許してくれるかな。会いたい。会いたい、君に。
そのとき、ふっと思い出したのは、君とした雑談。
――僕がやれるのは、それぐらいのことしかない。
僕は、最期の挑戦を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます