第7話

 かといって、何かが変わるわけでもなかった。僕たちは僕たちなりに付き合っていった。正面からぶつかり合った。いっぱい、思い出を作った。



「ねぇ、十彩君」

「ん?」

「私はさ、十彩君がいない世界を生きていくことになるんだよね」

「そういうことになるね」

「……生きて、いけるかなぁ」


 心配そうに、離れたくないというように心橙が僕の手を握る。



「大丈夫だよ。ずっと僕のこと思い出せばいい」

「……そっか。頑張るね」




 でも、心橙はどこか寂しげな瞳を浮かべていた。


 ――そっか。いつも、僕は自分のことばかりだ。周りの人にどんな影響を及ぼすかとか、全然考えられてない。お母さんに、何を遺せる? 心橙には、何を遺せる?



 自分が、惨めになった。


 何をしたらいいんだろうね。どうしたら、僕は「生きた」という証を遺せるのだろう。



 そもそも、生きた証って何だろう? 僕はそれを遺すことができるのかな。できたら、いいのに。この問いの答えは、どうやったら求められるのだろうか? そもそも、求められるものなのだろうか……。


 あぁ、なんで僕はこうなのだろう? たった一人の愛する人のそばにさえいられないのは何故? 自分が惨めに思えてしまうのは何故?






 ――結局、僕が幸せになるには君のそばにいるしかないのかな。もう、君の顔さえも曇ってよく見ることができないのに。僕に、君の側にいる資格はあるのかな?


 なにか、返したい。返さないと気が済まない。返すから。最愛の君に。君だけに。

 ――だから、君の側にいてもいいですか? 君は、笑って許してくれるかな。会いたい。会いたい、君に。


 そのとき、ふっと思い出したのは、君とした雑談。

 ――僕がやれるのは、それぐらいのことしかない。


 僕は、最期の挑戦を始めた。



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