第6話

「なぁ、心橙」

「……なに?」

「青春の色のこと、覚えてる?」


 君は小さく笑う。


「もちろん。忘れてるわけない」

「よかった」


 息を吸って、言葉を紡ぐ。


「僕さ、今まで『幸せ』ってのがわからなくて。ずっと一生知らないで終わるのかなって思ってた」


 君の瞳をじっと見つめる。


「でもさ、君が教えてくれたんだよ。人に認められる嬉しさとか、暖かい、人の優しさとか」


 君の息の飲む音が聞こえる。


「僕の青春アオハルは――今、この瞬間だよ」

「……よかっ、たぁ」


 心橙は、途切れ途切れに話し始める。


「私、十彩君に迷惑しかかけてないと思ってた。独りよがりだなって、思ってた」


 心橙は、僕の腕から抜け出し、僕の前に立った。


「でも、十彩君が幸せなら――私はそれで、十分だよ」

「……ありがとう」


 人に想われることって、なんて嬉しいのだろうか。でもどうもできない、自分が嫌い。


「私の青春はね、もともと無色だったの。無色透明。‎白色でさえない。でもね、君が染めてくれたんだよ」


 ――そうだ。心橙もつらい思いをしてきていたんだ。


「ほんとに、ぜんぶ十彩君のおかげなの。……ありがとうね」

「心橙」

「…………ん?」




 想いを、君へ。


「僕さ、死んじゃうから、ずっと君の隣にいることは……できない」


 心橙が諦めたように視線を下げる。


「……そう、だよね」

「でも」


 心橙が顔を上げる。


「僕は、君のことが好きだ。どうしようもないほどに、君が好き。だから――」


 心橙の細い手をとって、膝をついた。


「この三ヶ月だけ、僕の隣にいてほしい。――僕の彼女になってくれませんか?」


 僕と心橙のシルエットが雨上がりの夕陽に照らされる。心橙の涙が一粒、地面に落ちた。




「…………はいっ」



 この日、僕たちは恋人になった。




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