第5話
そう言って、心橙は、僕に後ろから抱きついた。
「十彩君。私ね、十彩君のことが好きで好きでたまらないんだよ。そのままの私を認めてくれる人なんて初めてで。こんなに私に優しくしてくれる人なんて初めてで」
心橙は、僕の背中に優しく額を寄せる。
「私、本当に十彩君のことが好きなの。君のためなら何でもできるから。ねぇ」
今日、僕は初めて心橙の瞳を見た。
その瞳は、どこまでも澄んでいて、潤んでいて、強かった。
「ほんとのこと、教えてよ」
……見抜いて、いたんだな。話して、いいのだろうか。
心橙の瞳は、強かった。
「僕、病気なんだよ」
心橙は静かに僕の話に耳を澄ませている。
「彩白病。色が失われてって、死ぬ病気」
小さく息をのむ音が聞こえた気がしなくもない。でも、心橙の瞳は強い。
「僕が生きてるのは――あと、三ヶ月」
「――――――そっか」
僕たちの間に、沈黙が流れる。空気が重い。
「僕の未来なんて、元々明るくなかったんだよ。だから別に死んでも――」
「違う!」
心橙が、叫んだ。
「生きてるのなら、私がいくらでも明るくしてあげるよ! そばにいてくれるなら! 隣で生きてくれるなら! ねぇ、死ぬなんて言わないでよ……隣に、いてよ」
……心橙。
あぁ、どれだけ良かっただろう。僕が彩白病にかからなかったのならば。何気ない日常で僕たちが出会ったのならば。君に、「僕も好きだ」と言えたならば。
その一言がどうしても言えない。君のことが好きなのに。この気持ちは、ホンモノなのに。どうしたら、この愛は証明できるのだろう。君にこの気持ちを伝えられるのだろう。
「君の隣に、いたいよ。いつまでもこの日々が続いてほしいよ」
「それなら……」
「でも!」
敢えて、心橙の言葉を遮る。
「僕は、死んじゃうんだよ。心橙の未来に、僕はいない」
心橙は僕を強く抱きしめる。僕も、強く抱きしめ返す。
二人で、泣いた。子供みたいに泣いて、泣いて、泣いた。それしかできなかった。このどうしようもない感情を晴らすには、泣くしかなかった。
その間に、外に降っていた土砂降りの雨も止んだ。
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