第4話

 それからも、温海さんがこの部屋に来る日々が続いた。僕たちの距離はちぢまり、「心橙」「十彩君」と呼び合うまで至った。幸せだった。この日々がずっと続けばいいと思った。


 けれど、現実というものは、残酷なんだよ。

 僕に笑いかけてなんてくれない。

 僕は、君とは違うのだから。



 違和感に気づいたのは、あの日の朝だった。土砂降りの雨が降った、あの日。


「――なんか、白いな」


 世界が、霞んで見えた。色が薄く見えた。色彩が少し、消えていた。

 ――これが、彩白病。

 自分が病気にかかっているだなんて実感できなかった。死に近づいているだなんて。この世界から消えてしまうだなんて。

 でも、本当なんだな。少しだけ、視界が潤んで見えた。

 症状がでてきた、ということで診察を受けた。ネットの情報によると、この頃から残りの寿命を知ることができるようになるらしい。



「先生、僕はいつ死ぬんですか?」


 先生は苦しそうに目を伏せる。


「――あと、三ヶ月」








 三、ヶ月、か。思ってたより、全然短かった。ほんとかな。これが全部夢だった、とか。ない、のかな? 夢だったらいいのに。全部、全部本当じゃなければ良かったのに。なぁ、世界は残酷だな。もう、嫌だよ。今、死ななくたって何が変わる――?


 そう、だよ。僕が生きてる意味なんてあるのか? 死んだって何も変わらないんじゃないか? ――死んだ方が、いいんじゃないか?






 遺書も書いた。窓を壊すための重い荷物も持ってきた。準備は、万端。この荷物で、窓を壊して、そこから飛び降りれば――




「十彩君? 聞いてる? 何しようとしてるの? ねぇ、十彩?」


「――――心橙」


 なん、で。




「――なんで、いるんだよ」


「来たかったから来ただけ。ねぇ、何しようとしてるの? そんな荷物、窓に振りかざして――?」



 だって、僕は、

 もう……




「死のうとなんて、してないよね? 死なないよね? そばにいてよ。離れないでよ」



 そう言って、心橙は、僕に後ろから抱きついた。

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