第2話
入院してから数日もたてば、残酷な事実も人は受け止められるようになるらしい。なんだか、すごく自分が惨めに思える。あれだけ頑張ったのに、結局待ってるのはバッドエンド。入院してからも、僕はコンタクトレンズを手放せないでいる。
そんな日常が変わったのは、ある一人の来訪者が訪れてからだ。
――コンコン。
「はい」
部屋の中に響くノックの音。いつもの看護師さんより少し柔らかめな気がする。母はノックなんてしないし……誰だろうか?
「失礼します。――千景君?」
「――
そこにいたのは――高嶺の花だった。
そんな温海さんが――なんで?
「寄せ書き、持ってきたの。先生に頼まれちゃって」
あぁ、なるほど。温海さんまでともなれば、先生からの信頼度も高い。面倒くさいこの役を押しつけられたって訳か。
「わざわざありがとうな」
学校での俺を作って微笑む。うまく笑えていたかはわからないけれど、俺はこれでいい。
「……おんなじだ」
「え?」
温海さんが、俺の瞳をじっと見つめる。
「無理、してるでしょ。おんなじだね」
そういって、温海さんは――――笑った。かわいい。不覚にもそう思ってしまっている自分がいる。
っていうか、「おんなじ」ってことは……
「温海さんも、無理してるの?」
そう聞くと、視線を少しさまよわせながら、こくりと小さくうなずいた。
「私、実は怖がりで。でも、ばれちゃうとキャラが壊れちゃうから隠してるの。……秘密、だからね?」
口の前に小さく指でばってんを作りながら、温海さんは僕のことを見つめる。今僕はどんな表情をしているのだろうか。学校の「千景十彩」になれているだろうか。
――なれていなくても、僕は僕、だよね? 温海さんは、それを認めてくれるよね?
温海さんは、僕の前に小さな小指を差し出した。
「……やくそく」
――高嶺の花、なんかじゃない。僕が今話している温海心橙は、無邪気でかわいい一人の少女だった。
「おうよ」
僕たちがつないだ小指は、オレンジ色の夕陽に照らされていた――。
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