超能力者、異世界行くってよ
黒犬狼藉
第1話 超能力者、異世界行くってよ
「えぇい、来るな来るなッ!! クソッ、畜生ッ!! 俺はオモチャじゃねぇぞッ!!」
我ながらみじめな叫びだと思いながら、
彼がこうして森の中を走って、もう二時間は経過した。
少年が空を見上げれば、見慣れない月が二つ。
都市のビル群とは異なる、鬱蒼とした森林の奥に見える。
深夜の森を駆け抜けながら、チラリと背後を見る。
五体
おおよそファンタジーでしか見ない、緑色の子供ぐらいの化け物が彼を追っている。
勿論、彼は特殊な訓練や技能を持っている人間ではない。
現役陸上選手でなければ、アマチュアの登山家でもないし特殊訓練を行った自衛隊員でもない男子高校生である以上は彼ができることなど知れている。
当然、組み合えば待っているのは押し倒される未来だろう。
息を切らし、肩を大きく上下させながらも全力で森を走っていく。
そうすれば、唐突にも視界が開け目の前に草原が飛び出てきた。
広大な、広大なと称する以外に言葉が見当たらない草原。
夜なのに、二つの月光に照らされ嫌に綺麗に見える異世界。
そして、視界の中に映るのは燃え盛る松明の明かり。
「少年、運がいいな」
声、次に飛び込んできたのは豊満な胸部を覆う鎧。
金属がこすれ合う音と共に、背後の森から草をかき分ける音がする。
ゴブリンがやってきた、少年を追いかけて。
怯えたように顔をゆがめる少年を手で制しながら、鎧をまとった女性は刃を抜く。
次の瞬間には、そのゴブリン全員が切り刻まれて肉片と化していた。
流麗な女性は、剣を軽く一振りし少年の方へ向き直る。
「おい、バカッ!! 死にたくないなら今すぐ避けろッッツツツ!!!」
少年の絶叫、それは女性剣士に向けられたモノ。
思わず剣士は森の方へ振り替える、直後に轟音と爆炎が沸き上がり一筋の光が槍のように森の奥から現れる。
少年に倒れこむように、剣士が殺しきれていなかったゴブリンの死体が落ちてきた。
先ほどの光に頭部を潰され、動く力はないらしい。
「今、私のことをバカって言わなかったかしら?」
「ハハ、冗談キツいって」
森の奥底で確かに少年はゴブリンに見つかり、追いかけられていた。
だがそのゴブリンたちも、自分の生命を脅かす脅威から逃げていたのだ。
その驚異とは、一体何か?
少年、
全員に共通項はあまりない、むしろ絶対的な共通点といえば井池と友人であることぐらいだろう。
目の前の少女も、そのうちの一人だ。
能力名、『
熱量を操作し、創造することが可能な超能力。
そんな彼女は、指を銃のように折り曲げながら女性剣士の方へと向ける。
「ねぇ、提案があるんだけど? 千馬」
怪しげな笑みを浮かべた少女は、青ざめた顔をしている女剣士の方へと詰め寄る。
井池は嫌な予感に顔を歪め、そして慌てるように両手を振るがもう遅い。
少女は一切の躊躇なく、女剣士の方へ炎を発生させてこう詰め寄る。
「案内しなさいよ、この世界を」
拒否権がないことを悟った女剣士は、大人しく降参の意を示しながら剣を仕舞い。
そして、彼女の言葉に賛同するのだった。
超能力者、異世界行くってよ 黒犬狼藉 @KRouzeki
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