転んだ。つま先。ブン飛べ。
京極 道真
第1話 転んだ。先は地面ではなく。
あー、明日から新学期かあー。冬休みは短い。短すぎて何もできない。
中1の冬休み。12月、1月と、この町は雪は降らない。
駅前にある私立の大学も休み。
なんとなく町は静かだ。
もちろん中学校も休みだ。
クリスマス過ぎの26日までは、なんとなく
部活行ったりで駅前もざわついていた。
27日になると一気にお正月モード28,29、となんとなくやり過ごし、気づけば
今日は31日。大晦日だ。
去年の大みそかは、中学受験で必死。
何に、せかされていたのかわからないまま
時間がないと焦っていた。
そして中学受験。
見事に第一志望校合格。なんてわけもなく。「普通だ。普通。」
『早いうちに不合格。痛手を経験していた方がいい』と父さんは小6の僕をなぐさめる。
ありがたいが。小6の僕には不合格の文字は、いたすぎる。
まあ、これを機に中学では失敗しないように
勉強して高校、大学と希望校に進みたい。
何せ僕は小6にしてかなりプライドが高い。
さすがに合格通知の翌日の小学校の登校は、
ココロもカラダも重かった。
3学期のランドセル。中身は軽いはずなのに。
あの日のランドセルの重さは今も肩にずっしりと食い込む。
まあー、そういっても本来の自分自身の性格に救われた。
僕はプライドは高いが、お茶らけの性格だ。
クラスメートからはそう、思われている。
自分で自分を救ったのだ。「はーよかった。」
あれから1年か。
僕は部屋の窓から外を見た。
日がでているけど、、やっぱり今日は寒そうだ。
さてとゲームでもしようかな。
PCを立ち上げた、同時に母さんの声。
「ショウタ、コンビニ行ってくれない。
お醤油、きれそうなの。」
とりあえず。「いやだ。」断る。
今度は少し声が高くなる。「ショウタ。頼むから、買ってきて。」
即答。「いやだ。ゲームしてる。」
今度は部屋のドアが勢いよく開く。
「ショウタ!買ってきなさい!」
「はい。」僕は即答。
いつものように結局、おつかいに行くことになる。
母さんは「はい。これ。」とエコバックとカードを僕に渡す。
「醤油ね。行ってきまーす。」
決まって「お菓子いいわよ。一緒に買ってきなさい。」
「ラッキー。」
玄関を出る。
いつもの流れだ。
怒られて行くより、一回で「はーい。」と行けばいいのは、分かっているが
つい、反抗したくなる。もちろん僕は不良でも反抗期でもない。
いたって「普通だ。普通の中1だ。」
僕は家の前の道を走った。
「そうっか?」声が後ろから追いかけてくる。
車も走っている。空耳か?
「おい、人間。聞こえないのか?」
今度ははっきり聞こえた。
「誰だ!」僕は振り返った。「虫?」
誰もいない。僕はまた前を向き、走りだした。
次の瞬間僕の真横を小さな虫が追い越していく。
「足が遅いな。人間。」
今度は、はっきり聞こえし、見えた。
「待てー!虫!」
僕は目の前の虫を捕まえようと猛ダッシュ。
左足、つま先が、小さな石ころにつまずく。
「わあー!」僕は右手に持っていたエコバックをバーンと落として
地面に顔から転んだ。転んだ。顔から。あれ?地面に転んだはずなのに痛くない。
地面がゼリー状に。いや本物のゼリーだった。
それにイチゴのいい匂いがする。
試しに食べてみた。ゼリーだ。間違いなく、
僕が大好きなイチゴのゼリーだ。
何だ。これは地面がぜーんぶ、ゼリーでぶよぶよしている。
僕はぶよぶよ地面の上でジャンプした。
気持ちがいい。ぶよぶよだ。泳げのか?
僕はクロールで泳いだ。ぶよぶよだけど泳げる。「ハハハ。なんだこれは。まるで。」
「まるで、何だ人間。」
仰向けにゼリーの上に寝転がった僕の鼻の上に虫が。
「わー!虫だ!」
僕はあわてて、起き上がり手で虫を払った。
「人間は、どいつもこいつも乱暴だな!」
「生意気な口調のその虫がまた僕の目の前に。」
「虫、お前は誰だ!」
「誰だって?見たまま。虫に決まってるじゃないか!」
「そりゃ、そうだけど。なんで話せるんだ。」
「俺は俺様が天才だからさ。」
「虫で天才か。それ笑える。」
「じゃあ、僕も天才だ。天才ショウタ様だ。」
「天才の割には、石ころにつまづき転ぶとは、おっちょこちょいだな。ショウタ。」
「それは仕方ないさ。母さんのおつかいで急いでたんだ。」
「いくら急いでたっても、こうして転んでゼリーの地面で道草食って。
いいのかな?おつかいは?」
「そうだ。こうして遊んでいる場合じゃない。醤油を買いにいかなきゃ。
コンビニ。コンビニはどこだ?しまった!
その前にここはどこだ。」
僕は辺りを見回した。
イチゴの匂いのゼリーしか地面は見えない。
しかし僕は意外とこういうときでも動じない。案外調整能力は高い。
まわりをよく見て目の前の虫に聞く。
「虫。お前がさっき僕に話しかけてきた。
それで僕は転んで、こうなった。
原因はお前だ。虫!それに怪しいな。
虫は普通、しゃべらないぞ!」
「そうだ。その通りだ。俺様は普通の虫じゃないぞ。」
「じゃあ、僕と同じで天才の虫だとか。」
「はあ、そんなお前といっしょにするな。
俺様は時空をさまよう虫様だ。ブンだ。」
「時空をさまよう虫?ブン。僕はショウタ。」
「ショウタか。ショウタこの景色に見覚えはないか?この空間もお前の記憶の中の風景だ。」
「ブン。こんな風景は記憶にない。
第一、人間世界でゼリーの地面はないぞ。」
「そうか?お前が忘れているだけだろう。」
「そっか?僕が忘れているだけか?
それより出口だ。元の世界に戻りたい。
ブン。力をかせ。」
「ショウタ。それが他人にものをたのむ言い方なのか?しつけがなっていないな。
人間。親の顔が見てみたいものだ。」
即、僕は「母さん達の悪口は言うな。
ちゃんとしている。僕が。僕がいけないんだ。
悔しいが言い直すよ。ブン。人間界、元の世界に戻る道を教えてください。
これでいいか、ブン。」
「それでよろしい。だが、お前はほんと負けず嫌いだな。」
「そうだ。悪いか!」
「悪くない。」
「じゃあ、飛ぶぞ。ついて来い。」
ドーンとジャンプして僕は地面に着地した。
いつもの風景だ。えっ?でも何か少し違う。
僕の身長も伸びている。
ここは?でも手には母さんのエコバックを持っている。中にはは醤油が入っている。
「ただいま。」
「ありがとう。ショウタ。外、寒かったでしょう。お雑煮もうすぐできるわ。
ショウタが買ってきてくれたお醤油で仕上がり。
明日、お正月に食べるけど、少し味見する?」
「あー、頼む。母さん。」
「えっ?何?」
「母さん、その髪型だったっけ?
もっと髪、長かったんじゃないの?
それにえっ?年取った?」
「ゴツン。」ゲンコツが頭に落ちる。
「ゲンコツは相変わらずだな。」小さい頃から母さんのゲンコツは頭によく落ちた。変わらない。
「ショウタ、さっきから、何を変なことばっかり言ってるの?
コンビニにお醤油頼んだだけなのに。
どこかで転んで、頭でもぶつけた?」
この言い回しも、僕が小さい頃から母さんは変らない。
「ショウタ、明日はお正月よ。あなたの大学合格祝いを兼ねて、母さんたくさんお料理作ったのよ。つまみ食いは、いけないけど。
冷蔵庫の中にあなたが好きなイチゴのゼリー作ってるわ。食べなさい。」
「あー、ありがとう。」
台所で父さんが「ショウタ、がんばったな。
お前が東の一番大学合格するなんて。
父さん、うれしいぞ。」
僕はテーブルの分厚い封筒を見た。
東の一番大学合格通知書だった。
僕は確か中1のはずなんだが。
目にお前のリビングの時計がくるくると反対まわりに回りだした。
ブンの声がした。
「つまずくことはよくあることさ。転んだら起き上がれ。それだけさ。」
気づくと時計が23:59。0:00!ハッピーニューイヤー!
転んだ。つま先。ブン飛べ。 京極 道真 @mmmmm11111
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