第二部 次元

--雨


遠い空から運ばれてくるものは

何処かで生まれた雨


沢山の痛みを身に含んで

沢山の諦めを身に纏って


雨は、それそのものが罰であるかのように振る舞う


傘を嫌う自由人は

贖罪をことさらに強調する

傘を持たない罪人は

反論する。

苦情を並べる。

泣き言を重ねる。


雨は、全てまとめて、濡らしていく。


--構造


古い時代に生み出されたシステムは

朝と夜を識別することすらできなくて

新しい時代に捨てられたしきたりは

去年と今年を冷徹に区別する


温かな痛みを知る子供たちは

その温もりをもてあます

温かな痛みを懐かしむ大人たちは

仕方なく、冷たい快感で我慢をするのだろう


--神


神は代弁者を求めた

幾人かがそれに挙手し、身勝手な戯言を並べ立てた

神は身を隠した

誰かが歌った

神は、失業したのだと

それもあながち間違っていないような、

そんな気がする


--嘘つきな正直者


世界が平面を飛び越えた時に

仕組みが、切り替わった時に

既成事実が崩壊した時に

僕が生まれた朝に

君が死んでしまった夜に

夢がこぼれていった夏に

理想が掃き捨てられた冬に

何かの何かが何かの時に

嘘すらも本当に出来るような気がしてくる

本当すらも嘘だったような気がしてくる


--次元


砕け散った世界の

その欠片を集めて

それを繋ぎとめる約束を探す

次元がゆらぎ

魂の光に触れる

閉じられた世界の

閉じられた宵闇

僕は僕であるけれど

僕でしかないわけではない

世界の一部が、嘘になっていく


--レゴリスの見る夢


生まれ落ちたその日から

離れて、離れて

離れ続ける

全てを見守る、その一部

幾億の星霜と

果てしない静謐にその身を任せ

夢を見ながら

思考を重ねながら

私は、皆とともに

今宵も遠ざかって行く


--奪


僕は此処から電話をかける

呼び出し音が数回鳴る

留守番電話の自動応答は

いつだって、完璧に僕から言葉を奪い取る

今、此処にあることば

その行先はちゃんと決まっているのに

ことばもそれを望んでいると分かっているのに

僕はいつでも、どうすることも出来なくて

また、リダイアル

此処が何処かもわからないまま


--壊


世界は、動かない

じっと、黙って固まっている

動き方を忘れてしまったのかもしれない

そう思い、軽く小突いてみる

僅かに揺れる

動き方を思い出そうとしているかのような身震いと

眠たげな目線

動かない方が良いとでも言いたそうだったから

いっそ、壊してしまおうと僕は思った


--帰還


気が付けば、幾つかの夜が過ぎた

また、朝が来るのだろう

怖れていたものが何であったのか

今ではよく覚えてもいない

常に閉じられていた扉が開かれたなら

大丈夫、何も怖くない

辿るべき道は

既に、記されている

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