堕天使の取り分

きっとね!

堕天使の取り分

        「「「「「ファッ*ン、エンジェル!!!!!」」」」」


 高らかに、確かにそう叫んだ・・・・・・心の中で


 な~にが「免罪符を受け取るなら現世で良い行いをしなさい」、だ。冤罪の罪でお前らが地獄に落ちろカス。


・・・・・・・まぁ手を出した俺が普通に悪いか。


 上司である翼(笑)を持つあいつらをぶん殴って現世に堕とされた俺は今、無人販売所においてあった、おそらく俺へのお供え物であろうバナナをモシャりながら地に足をつけている。


 天使見習いになって何年たった?いまだに翼を貰えていない俺は、下級天使として天界でしごき回されていた。

来る日も来る日も人間観察ばっかの毎日に飽き飽きした俺は、早く翼をよこせと抗議している最中だった。周りの中でも成績は順調、むしろ右肩上がりの俺の成績は噓をつかない。成績はな。

白シャツしか着ねぇのに中身はドス黒い奴らは何食わぬ顔で文句と反論押し付ける。だから殴った。



(堕とすだけ堕としといて助言も何もないのかよ)

 上司として終わってるやつらに一泡吹かせたいが、残念なことに今の俺は現世でいうところの浮浪者だ。ただ歩いているだけしかできない。

すれ違う人は俺を奇妙な目で見てくる。裸足に白いワンピースを着たおっさんだから仕方ないが。


少し歩いていると、見覚えのある場所が目に入った


「懐かしいな、、、」

 思わず言葉がこぼれる。

人間だった頃を思い出す。

俺はいわゆる誰に対しても優しい善良な男であった。生きている間は自分を犠牲にしてまで、誰かのために動いていた。あの日もそうだった。

たまたま入ったコンビニで、たまたま強盗が入ってきて、たまたま俺がガキを庇った。



あのガキを助けたのは間違っていたのか?

強盗が襲おうとして庇おうとしたのが運の尽きだったか?

いち早く逃げて警察に連絡するべきだったのか?

ナイフの刺さった位置がずれていたら?



だめだ、今更考えることなんて何もない。ただの自己犠牲の賜物なんだから。

そう、言い聞かすことには慣れていた。



(思い更けるのもたまには悪くないかな)

娯楽も、空腹も、睡眠も、必要のない天界と違って、今は真夜中の湿った喉に何かを注ぎたかった。


~♪~


幾つかぶりに聞く入店音、店内BGMと共にステップを刻みたいが、今の俺の姿じゃ危ない危ない。


「これください」

 俺は安ワインをレジへと持って行った。

深夜だからだろう、従業員は若い男の子一人であった。


「いらしゃいませ~こちらお預かりいたしm、、、、」


目線が合う


離れない、いや、外そうとしないその視線は、期待と不信感で淀んでいた。

その瞳に一瞬、あっけにとられたが俺は思い出した。


      (金もってねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!)


 あぁ、タコ殴りにしたい、あの天使。

せめてお駄賃くらいよこせや、はげカス。

不信感の正体は俺が一文無しの浮浪者と見抜かれていたからだ。

今度こそ走って逃げるか?警察を呼ばれる前に。


頭の中がパンクしそうになる時だった。


「こちら、ちょうど廃棄になる予定のワインでした、もし宜しければお持ちいただいても結構ですよ」


本物がいた、天使が。

照明の明かりがまるで天使の輪っかのように、彼の頭に神々しく咲き乱れていた。

(これこれ~!本物はこうでなくちゃ!)

頭の中で目の前の天使を崇め奉っていたら、彼がつぶやいた。


「ありがとうございました」


「ぇ?」

 派手にあほずらをかましてしまった。

ここ数年、お礼を言われる事がなかった俺は天使の囁き声にたじろいでしまった。


「こちらこそ、、、、なんかすいません!ありがとうございます!」

前世で徳を積んどいてよかったと初めて思った。

あの少年を覚えておいて、俺がいつか天使になった時恩返しをしてやろう。











キュポン/


力任せにコルクを抜いた。

コルクにしみ込んだワイン、この香りと味はどこへ行くのだろうか。

行方は少し知っているかもしれないが、喉を流れていく感触は確かに俺が今生きている証拠だった。

天国でも地獄でもない、羽も角もいらない、そんな思いが後味と共に残る。




「さ~てと、善良な行いでもするとしますか!そんでもって、ぜっっっっっったいに俺の取り分をぶんどってやる!」














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