音とつま先
海空
音とつま先
夏の帰省は耳から始まる。
昭和に建てられた実家には常に音が存在していた。
クーラーなんて無い。「田舎は自然クーラー!」と、昭和伝説を信じて疑わない母。窓は全開、そして扇風機がいたるところに置かれ重宝されていた。
多重音声の蝉の声、扇風機、蚊、走り回る母の足音と鼻歌。
それがいつもの夏────
今年はライムグリーンのネイルが流行りと聞き、昨日早速購入してみた。普段は教員という立場からマニュキュアはしない。だけど流行りというものを一度はやってみたかったのだ。
つま先を出し初めてのペディキュア、ちょっと羽目を外した感じで楽しい。爪先は重ねて塗ると剥がれ防止になるとも書いてあった。よし、なら念入りに塗り込もう。
おお! つま先だけは別世界✨かわいいじゃないか♪
「うわっ、あんたの爪腐ってるの?」
一気に現実に戻された。
出たなケチつけ
「うっさいなペディキュアだよ」
「プリ○ュア?」
「……💢」
母はスッキリ顔で『ふたりはプリ○ュア』を口ずさみながら去っていった。ホントに腹が立つ。
冬が来た。静かな冬の帰省。
夏にあったような重なりあう音は無く、玄関を開ける金属音が響いた。
座敷で靴下を脱ぎつま先を出す。ライムグリーンのペディキュアが寒々しく見えた。
「冬はもっと暖かみのある色や濃いめの色が流行りなんだって。それはさ、まだ買ってないんだけど……」
「ねぇ、腐ってるって言ってよ」
写真の母はとても静かで、痛いくらいに心に
音とつま先 海空 @aoiumiaoisora
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
兼業主婦のひとりごと🌱/海空
★42 エッセイ・ノンフィクション 連載中 7話
雪は悪くない/海空
★27 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
🐤つぶやきのつぶやき🐥/海空
★60 エッセイ・ノンフィクション 連載中 115話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます