第5章 君の本当の姿 side芹菜

第5章 ①

 梅雨の時期、六月上旬。

 今日のHRでは、来月にある体育祭についての話し合いが行われていた。


 体育祭は、私が二番目に苦手な行事だ。ちなみに一番は持久走大会。


 私は、運動が苦手なほう。だから体育祭は必然的に苦手。

 特に、全員参加の徒競走が苦手だ。うーん、あれだけは許せない……。



 ちなみに櫻ヶ坂高校の体育祭では、中学のときと同じ感じで各競技やりたいのを選んで出場するらしい。


 その競技というのが、今黒板に書かれている……。



 玉入れ

 借り人・物競争

 綱引き

 騎馬戦



 の四つみたい。

 力にあんまり自信はないけど、選ぶなら綱引きかなあ。

 玉入れは玉入れるだけだから一見簡単そうに見えるけど、かがんだり上向いたり腕振ったり意外とやることが多い。


 ある程度目安を付けていると、私はあることに気が付いた。


 ……あれ? リレーがない?


 中学のときにはあった、クラス対抗選抜リレー。

 小学校のときは全員参加だったけど、中学から選抜になったんだよね。

 リレーって他と比べると特に盛り上がるし、だいたいラスト種目だからここでの順位が総合順位に大きく関わってくる、まさにプレッシャー競技。



 全国どこの学校にもあると思ってたんだけど、櫻ヶ坂にはないのかな?


「えーあとですね、クラス対抗リレーは全員参加です」



 体育委員さんがそう言うと、教室がざわついた。


 リレーやっぱりあるんだ……ってうそ、リレー全員参加!?

 小学生のときはなんとか耐えて、中学は選抜だったから不参加のクラス対抗リレー。


 もうバトンを渡すことはないんだなあ、なんてのんびり考えていたのに……。



「時間の都合上、今年から色別対抗選抜リレーはなくなったそうなので、みなさんが出るリレーはこれのみとなりまーす」


 そ、そんな軽々言わないで~っ!!

 ど、どうしよう、どうにかして不参加にならないと……!!



 ……なんてことはできるはずもなく。

 リレーの順番は、春にやった体力テストの50メートル走の結果から体育委員さんがすでに作っていた。


 し、仕事がはやい!!! でも困る!!!


「前の黒板に張っておくので、異論などある人は順番の紙に書いておいてくださーい」


 と言って、次の競技決めにいってしまった。

 どうしよう……リレーなんて最後にやったの小学生の運動会だよ。

 バトンの渡し方とか、カーブの曲がり方とか、正直全く覚えてない。


 一人で練習しようかな……。



 競技決めでは、見事綱引きの出場を勝ち取った私。

 枠が溢れるほど希望者もいなかったんだけどね。



 これから体育祭に向けて本格的に練習が始まる。

 どうか、ハードじゃありませんように……。


 私は心の中で、そっとお願いしていた。



❀◦✴◦♪◦❆◦❀◦✴◦♪◦❆



 放課後。私は自分の席でぼんやりと座っていた。


 律くんには"用事がある"と伝えてある。

 で、その用事って言うのが……。


「桜庭さん」

「あっ」


 私の席に来たのは、李本さん。


「ごめん、ちょっと担任に捕まってて」

「だ、大丈夫っ」


 実は昨日の夜、李本さんからメッセージが来たんだ。


『明日の放課後予定ある? もしなかったら、付き合ってほしいんだけど』


 付き合ってってことは……どこかに行くってことかな?

 そういえば"偽の友達"になろうって話をしてから、すでに一週間ほどが経過していた。

 正直ちょっと忘れかけてた……とはもちろん言わないけど。


 たぶん、そのことだろうなと思う。

 それ以外に私と李本さんの接点ってないし。


「このまえのことで話したいことがあってさ。学校の近くのカフェでいい?」

「あ、うんっ」


 普段関わりのない、キラキラしている李本さんみたいな人と話すのは少し緊張する。

 ……私と李本さんが関われているのは、あくまでも利害が一致したから、だけど。



 律くん以外の人と下校するのは初めてだ。

 そういえば、李本さんはどこに住んでいるんだろう。

 私と同じ町に住んでいたりするのかな?


 聞いてみようかと思ったけど、あんまり馴れ馴れしくすると不快かなと思い踏みとどまる。



 学校を出て、本当にすぐ近くのところにお店はあった。

 心地いい木の匂いと店内にかかる柔らかなBGMが相まって、レトロな雰囲気だ。



 店員さんに案内され、私たちは向かい合わせの席に座る。

 さっそく李本さんがメニュー表を開いた。


「桜庭さんお腹空いてる?」

「あ、ううん。大丈夫、です」


 今から李本さんが話す内容と緊張で、お腹なんて空かないよ〜っ。


「じゃ、飲み物だけでいっか」



 お互い飲み物を注文し店員さんが去って行ったあと、李本さんは口を開いた。


「ねえ、この前の話を受けてくれたってことはさ」

「は、はい」


 とつぜん始まったあの話題にびくっとしながらも、なんとか返事をする。

 李本さんはテーブルを見つめていた視線を上げた。



「……桜庭さんは、慧を好きだってことでいいんだよね?」

「……エ?」


 私が梅原くんを……好き?

 すき、すき、すき……あ。


 ああっ!!


 そういえばあの話って、律くんとのことを協力する代わりに、私と梅原くんのことも協力してくれるって話だったよね!?

 律くんと李本さんがーってことばかり考えてて、すっかり頭から抜け落ちてた。


 偽友達を了承したことにより今李本さんの中で、私は梅原くんを好きってことになってるんだ。



 どうしよう……好きじゃないって言ったら、李本さんどう思うかな?

 そもそも恋の"好き"もわかりません、とか……絶対まずい。


 かといってうそはつけないよ。

 なら、正直に言うしかない……。



「あ、あの、梅原くんのことなんだけど、私……」

「おまたせしましたー。紅茶とカフェラテでーす」

「ありがとうございます」


 タイミングがいいのか悪いのか、店員さんが商品を運んできた。

 李本さんがカフェラテを受け取る。

 そして、私が紅茶を受け取ろうとしたとき。


 がちゃんっ!!


 すんでのところで店員さんの手が滑り、カップがテーブルに落ちてしまった。


「も、申し訳ございません!!」

「だ、大丈夫ですっ」


 店員さんはすぐにテーブルの上にこぼれた紅茶を布巾で拭く。

 幸い、カップは割れていない。


「桜庭さん大丈夫? 濡れてない?」

「あっ」


 李本さんに言われて気づく。

 テーブルから紅茶が垂れて、スカートにかかっていたのだ。それもかなり。


 するとお店の奥から別の人が出てきた。


「大変申し訳ございません! お代はけっこうですので」


 店員さんが、私のスカートも拭いてくれる。


「私、学校戻ります。たしかジャージあったから」


 このままじゃ帰れないし、帰るくらいなら近い学校に戻って着替えたほうがいいと思った。


「わかった、あとはあたしが対応しとくから。じゃあ、今日はここで解散ね」

「うんっ、ごめんなさい」


 カバンを持って、私はお店を出た。

 足に濡れたスカートがくっついて冷たい。あと、重い……。


 だけど、この時期で良かった。冬だったら風邪ひくかもしれなかったから。

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フェイク・フレンズ 桜田実里 @sakuradaminori0223

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