第4話 これはホラーか
――ここ、どこなの?てか、夢じゃないよね?
「はあ、はあ、はあ・・・足・・・いたい・・・」
かなり走ったところで、莉久は息を切らしながら、周りを見渡す。
おそらく東京に変わりはないが、何か違う気がする。
とてつもない不安が襲ってきた。
「きみ、どうしたんだ?」
巡回中の警察官に声を掛けられ、莉久は安心した。
「お巡りさん!ここはどこですか!?うちに帰りたいんです!!」
交番のイスに莉久は座らされている。
「じゃあ、家出じゃあないんだね?」
「家出じゃないです。」
「う〜ん。キミ、靴は?」
「わかりません。」
「家はどこ?住所教えて。」
「東京都足立区◯◯◯」
「だからね、そこには家は建ってないんだよ。困ったなぁ・・・」
つじつまが合わない返答に、警察官は困っていた。
困っているのは莉久も同じだ。
気がついたら知らない部屋のベットの上で、警察官に保護されたが、家の住所を教えても、そこには家は無いと地図を見せられ、家に電話をかけても繋がらない。
一体、何がどうなってるというんだ。
「困ったなぁ。とりあえず行方不明者届けは出されてないけど、もしかしたら事件に巻き込まれて一時的に記憶喪失になってるのかもしれないな。」
――記憶喪失になんかなってないし!だけど、それをどう説明したらいいんだろう。
莉久は何気なく交番に掛けてあるカレンダーに気づいた。
そして思わず吹き出した。
「お巡りさん、一体何年前のカレンダー掛けてあるの?ズボラにもほどがあるでしょ。」
「は?」
警察官はカレンダーを見る。
「何がおかしいんだ?」
「え?だって、1997年4月って、一体、何年前ですか。あたしが生まれる前じゃないですか。90年代って!」
警察官は、ますます怪しい表情で莉久を見る。
「やっぱり、明日、区役所に来てもらおう。キミ、今日は
「え?」
莉久は留置所に入れられた。
「明日、区役所の方に来てもらって、身寄りの方を探してもらうから。今夜だけ悪いけど、ここで寝てね。」
カチャン。
留置所の鍵が閉められた。
――そんなバカな・・・
ここは1997年。
夢じゃなさそうだ。
信じられないけど・・・あたしタイムリープしてる・・・!?
◇◇◇◇
「ただいま。」
「おかえり。裕二さん。」
父親が仕事を終え帰宅してきた。
鞄をソファに置き、スーツを脱ぐ。
「莉久はどうした?」
「自分の部屋よ。熱を出してから、あの子ちょっと変なの。体力が戻ってないのか、どこでもスグ寝ちゃうようになって。さっきなんか、あたしが仕事から帰ってきたら、ウォークインクローゼットでアルバム抱えて寝てたからビックリしちゃったわよ。」
父親はお風呂に入る為に脱衣場に行く。
「あんまりおかしかったら一度病院に連れてった方がいいかもな。世の中には色んな病気があるし。」
「そうね〜。まあ、少し様子見るけど。ご飯できたから、呼んでくるわね。」
母親は、莉久の部屋の前に立つ。
コンコン。
「莉久?ご飯出来たわよ。莉久ちゃん?」
シーン・・・
「莉久?開けるわよ。」
母親がドアを開けると、莉久は爆睡していた。
「もう、ホントによく寝るわね。起きなさい!莉久!ご飯出来たわよ!」
母親の声で莉久は目を覚ました。
「お母さん!」
莉久は起きるなり、母親に抱きついた。
「ありがとう!お母さん!助かったー!!」
「???」
警察署では、莉久が留置所から消えた事で大騒ぎになっていた。
◇◇◇◇◇
某テレビ局。
歌番組の収録にeterniteが楽屋で出番を待っていた。
それぞれ楽器のチューニングや発声をしながら出番にそなえる。
「Jyoi、そういえば、この間の変な物、どうなった?」
AKIRAがギターの音を確認しながら思い出したように切り出した。
「ああ、あれ?返せれたよ。なんか、また俺のマンションの前にいてさ、変わった子だよなぁ。返したら1人でブツブツ言ってて。しかもさ・・・その子、靴履いてなかったんだよ。」
「ええ?!マジで?!ヤバくない!?」
話を聞いていたRyuとDAISUKEも加わる。
「それって見えていい子だよな。Jyoiにだけ見えてる訳じゃないよな。」
DAISUKEが言うと全員の顔が強張った。
「やめてくれよ。俺、霊感とかないから。」
Jyoiは笑って誤魔化したが、内心少しビビっていた。
確かに、あの長いボサボサの黒髪は幽霊に見えてもおかしくなかった。
「eterniteさん、そろそろお願いします。」
スタッフが呼びにきてスタジオに向かう。
今日は抽選で選ばれたファンの前で演奏する公開収録だった。
メンバーはスタジオ入りし、客席を見ると、Jyoiは目を疑った。
最前列に莉久がいたからだ。
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