第3話 不思議なスマホ少女
「・・・・ちゃん・・莉久ちゃん・・・莉久ちゃん!!」
―――ん・・・
ゆっくりと目を開くと、母親が心配そうな顔で見ていた。
「莉久ちゃん、何でこんなトコで寝てるのよ!倒れてるのかと思ってビックリしたわよ!」
目を覚ました莉久を見て、母親は安心してキッチンに行った。
――あたし、やっぱり寝ちゃったんだ。スマホを探してたら、アルバム見つけて・・・気のせいか、eterniteの曲が聞こえてきた気がして・・・
「お母さん、やっぱりスマホが見つからない。どうしよう・・・」
「え?」
母親が怪訝な顔をする。
「そこにあるじゃない。」
「え?」
見ると、莉久の座るすぐ隣にスマホはあった。
「もう、しっかりしてよ。調子悪いなら部屋でしっかり寝なさい!」
莉久はボサボサの頭を右手で触りながら左手でスマホを持ち、じっと見つめる。
――なんで?どんだけ探しても見つからなかったのに・・・
Jyoiさんが、あたしのスマホを持ってた・・・夢の中で・・・
そして、ふと足元を見ると、靴下が汚れている事に気づく。
「なにこれ!?なんで靴下が汚れてるの!?」
1人で大騒ぎしている娘の事が、母親はだんだん心配になってきた。
「莉久ちゃん、もっかい病院に行く?」
「病院?」
――確かに、あたし熱が出てから少し変かも・・・夢なのに、なんか現実のような。
Jyoiさんに会って、まるで、本当に会ってるみたいにドキドキして、顔も、声も、夢とは思えないくらいに、ハッキリ覚えてる。
「あ、eternite!久しぶりねぇ!」
母親がテレビを付けると夕方の情報番組のゲストでeterniteのメンバーが出ていた。
30周年ツアーの最中らしい。
「Jyoi久しぶりだなぁ。やっぱり年とったなぁ。」
母親は懐かしそうに画面のJyoiを見つめる。
画面の中のJyoiは50歳のイケオジだった。
――あたしの夢に出てきたJyoiさんは、若い頃のJyoiさんで、とっても素敵だったなぁ。
莉久は自分の部屋に入った。
テレビでは、「スマホにまつわる思い出」についてトークが繰り広げられていた。
「Jyoiさんは、何かスマホにまつわる不思議な思い出があると伺ったんですが。」
女性アナウンサーがJyoiに話を振る。
「そうですね。もう20年以上前の話になるんですが、当時住んでいたマンションから出た時に、20歳くらいの女の子に出会ったんですよね。その子が、スマホ・・・のような物を落として行ったんですよね。でも、その当時、まだスマホなんて普及してないじゃないですか。メンバーと、なんだこれって、怪しがってね。」
「そうなんですね。」
「で、数日後に、偶然その子に再会して、それを、返す事ができたんですけど、なんか、その子、1人でブツブツ言ってて、何より驚いたのが、靴履いてなかったんですよ、その子。」
「えー!外ですよね!?それは驚きですよね!」
「僕、ちょっと怖くなっちゃって、逃げちゃいました笑」
スタジオは笑いに包まれた。
「へぇー。昔っから変な子はいたのねぇ。」
母親は、それが我が子の事だと当然思うはずなかった。
莉久はベットに寝転びスマホでeterniteの動画を見る。
――リアルな夢・・・
Jyoiの裾を掴んだ感触・・・
右手で自分の裾を掴んでみる。
同じだ。
この感触。
とても夢とは思えない。
けど。
――夢なんだよね。他に考えられないもんね・・・
Jyoi・・・お母さんが若かった頃の人気芸能人。今はもう50代のオジサン・・・それなのに、あたし、好きになっちゃいそう。
リア恋もした事無いのに、夢の中だけで会う人に、本気になっちゃいそうだよ・・・
eterniteのラブバラードを聴きながら、そっと目を閉じる。
――また寝たら夢の続きが見れるかな。
・・・・・
――なんてね、そんな訳ないか。
莉久は目を開けた。
「ん?」
――あたしの部屋・・・じゃない・・・え・・・?
見覚えの無い、部屋の壁紙。
天井も、なんだかお洒落だし、ベットも、大きくて、心地良い。
シャー
シャワールームで誰かがシャワーを浴びている。
――やだ?!ナニコレ!?どういうこと!?夢、現実、わからない!!
途端に莉久はこの状態に恐怖を感じた。
――なんだかよくわかんないけど、これは逃げないと、誰かに見つかったらヤバい状況かもしれない!!
カチャ
誰かが、シャワーを終えた時には、無事に莉久はマンションから脱出していた。
「何これー!?夢なの!?現実なの!?ここどこなの!?」
莉久は見覚えの無い街を再び靴下のまま走った。
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