第2話 これは夢

コンコン。


「莉久ちゃん、ご飯持ってきたわよ。」


母親の声で、莉久は目を開ける。


「薬が効いたのかな。体調悪い時はグッスリ寝た方がいいからね。」


ベットの隣の勉強机にお粥としょうが湯を置きながら、母親は言った。

莉久は何も言わずに母親を見つめた。


「ご飯食べ終わるくらいに薬持ってくるからね。」


母親が部屋を出ると、莉久は部屋に掛けてある時計を見た。


――7時・・・

あたし、かなり寝たんだ・・・


ゆっくり起き上がる。

パジャマではなく、トレーナーにデニム姿だという事に気がついた。


――あ、そうだ。病院に行く時に着替えて、そのまま寝ちゃったんだ。

もうすっかり暗くなったなぁ・・・

また着替えよ。


ピピピ・・・ピピピ・・・


37度8分。

薬のおかげか、少し下がった。


――変な夢見たなぁ。聴きながら寝たせいからなぁ。eterniteの人が夢に出てくるなんて。


デニムからパジャマに着替えながら、ふとスマホを探すが・・・見当たらない。


「あれ?やば。スマホどこやったかな。」


ベットの下や、鞄の中を探すが、見当たらない。


「ええ!?ヤバい!!どこやっちゃったんだろ!!」


◇◇◇◇


「おはよ。莉久。もう体、大丈夫?」


大学に着くと、友人の真子が声を掛ける。


「心配したんだよぉ。ラインしても既読つかないし。」

「ごめん。真子。スマホ無くしちゃってさ。」

「え!?マジで!?ヤバいじゃん!」


莉久は頷いた。


「とりあえず、家中探してみるよ。」


帰宅した莉久は家中を探しまわった。

だが、どこにも見当たらない。


「おかしいなぁ。病院にも落ちてなかったって言われたし。」


ため息をつきながら探していると、母親と見たアルバムを見つけた。


「少し、面白い夢だったな。」


莉久は少しだけみた夢を思い出しながらアルバムを開いた。


◇◇◇◇


某レコーディングスタジオ。

eterniteのメンバーが新曲のレコーディングをしている。


「少し休憩しましょう。」


メンバーが休憩室に集まる。

ボーカルのRyu 甘いマスクと歌声が魅力。

ギターのDAISUKE eterniteのリーダー。

ドラムのAKIRA 電化製品マニア。

そして、ベースのJyoi 甘いマスクで、ファッションリーダー。他の3人より1つ年下だが、リーダーの次にしっかり者。


「あ、このお菓子好きなんだよなぁ。」


Ryuが嬉しそうにテーブルの上のお菓子に手を伸ばす。

たわいのない話をした後、Jyoiが思い出したように、バックの中からビニール袋に入ったモノを取り出した。


「そういえばさ、これ、なんだと思う?」


テーブルの上に置かれたモノを4人で覗き込む。縦15cm、横7cm、厚さ1cm弱くらいの長方形のモノ。


「なにこれ?」


DAISUKEが手に取り、マジマジと見る。


「こないださぁ、変わった子にあってさ、マンション出たら、19,20歳はたちくらいの女の子に「スミマセン」て言われて。振り返ったら、その子ビックリした顔して走っていっちゃってさ。」

「何か聞きたくて聞いた相手がJyoiおまえだったからビックリしたんじゃないの?」


AKIRAが言う。


「たぶん、そうだと思うんだけど、たぶん、その子が落として行ったんだと思うんだよね。ソレ。」


DAISUKEは色んな角度から、ソレを見た。


「だけどさ、とりあえず交番に届けた方がいいんじゃない?よくわかんないけど、大切なモノかもしれないし。」


Ryuがお菓子を食べながら言う。


「そうだよな。そう思ったんだけど、その時は用事があって、そのまま(交番)行きそびれちゃったんだよな。うん、今日仕事終わったら行ってくるよ。」


Jyoiは、そのモノを再びバックにしまった。


レコーディングが終わり、マンションに帰宅すると、再びマンションの前に莉久が立っていた。


――あ、あの時の子!


莉久はJyoiに気づく。


「Jyoiさん!」

「良かった。キミに渡したい物があったんだ。」


Jyoiはバックから、ビニール袋を取り出した。


「あ、あたしのスマホ!」

「?」

「良かった〜!」


莉久はスマホを受け取り、電源を入れた。

すると、真子からの心配するラインが数件入っていた。


「ありがとう〜真子。ん?だけど、どうしてJyoiさんがあたしのスマホを?」


莉久は不審な顔でJyoiを見る。


「あ、それは、ごめん!すぐに交番に持って行くべきだったんだけど、イロイロ忙しくて届けなくて・・・別に、盗もうとか、そんなんじゃないから!」


Jyoiは慌てて説明をする。


「そっか。これも夢か。あたし病み上がりだから、まだ身体が疲れてるのかも。アルバム見ながら寝ちゃうなんて。」

「・・・・え?」


Jyoiは莉久が靴を履いてない事に気がつく。


――なんなんだ、この子・・・いい年して靴履いてないし・・・さっきから1人で訳のわかんない事言ってるし。


「ソレを返す事ができて良かった。じゃ。」


Jyoiは少し怖なり、マンションに入ろうとした。


「待って下さい!」


莉久はJyoiの裾を掴んだ。


――夢なら、いいよね。これくらい。


Jyoiは莉久を見おろす。


「君は・・・」

「あたし、外村莉久っていいます。母が・・・あなたの大ファンで・・・」

「お母さんが?」


Jyoiは優しく莉久の手を離し、微笑んだ。


「ありがとうと、お伝え下さい。」


莉久は心臓が飛び出しそうなほど、初めてのトキメキを感じた。


――ヤバい、Jyoiさん、かっこよすぎる。


――ヤバい、こういうヤバい子は、気分を害さないようにして、早く別れるに限る。


ときめく莉久を後にして、Jyoiは急いでマンションのエントランスに入った。






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