その指で弾いて

本間和国

第1話 はじめまして

こんな素敵な男性ヒトに出会ったのは始めてだ。

今まで感じた事の無い肌の紅潮

胸の鼓動の早さ

私・・・今、目の前にいるこの人に・・・

したの?


「君は?」


目の前の大きなサングラスの奥のアーモンド形の大きな瞳があたしを見おろす。

金髪が光に反射して、とても眩しい。


「あ、Jyoiさんですよね。あたし、外村とのむら莉久りくって言います。

母が・・・あなたの大ファンで・・・」

「お母さんが?」


目の前の美青年。

Jyoiさんは、優しく微笑んだ。


「ありがとうと、お伝えください。」


そう言うと、軽く会釈をして去って行った。


◇◇◇◇◇◇◇


2025年 春


「もう うちら就活だねー。莉久はもう行きたいとこあるの?」

「まだ全然、考えてない。」

「あたしも、求人見て決めるつもり。」


大学の講義が終わり、莉久と真子はカフェでお茶をする。

外村莉久 20歳。

私立の短大に通う、いたって普通の女の子。

今年は就職活動の年なのに、夢も無ければ、憧れも目標も無い。

大学に入ったのも、とりあえず、あと2年は遊びたいという理由から、その時の成績に見合った大学を受け、合格した。

特別、必死に勉強したとか、受験に苦労した訳じゃない。

友人の真子も、そんな感じだった。


「ただいまー。」


帰宅すると、母親がウォークインクローゼットを片付けている。


「おかえり、莉久。」

「何やってんの?」

「あまりに物が増えちゃったから、整理しようかと思って。」


莉久はリビングにリュックサックを置いた。

置いたというよりは、ほかったと言ったほうか近い。


「あ〜懐かし〜」


母親は嬉しそうにアルバムを持ってきた。


「莉久ちゃん見る?お母さんの若い頃の写真。」

「え〜?どっちでもいいけど。」


母親は、莉久の隣に座り、嬉しそうにアルバムを開いた。


「ああ、お母さんが今の莉久ちゃんくらいの時ね。」


莉久は面倒くさいと思いながらも覗き込んだ。

若い頃の母親は、莉久と似ていて色白の小さな顔に大きな二重の瞳の美少女だった。

だが、莉久と違うのは、母親はバッチリメイクをし、当時流行ったフワフワのワッフルと言われたパーマをかけ、かなりのお洒落だった。


「お母さん、若い頃モテたのよ~。莉久ちゃんも、お洒落したら可愛いのに・・・」


シラケた顔をして莉久を見る。

真っ黒な一度も染めた事の無い背中まで伸びた長い髪(美容院は1年に一度しか行かない。)

リップすら塗らないスッピン。

洋服は低価格の某有名メーカー。

夢も憧れも無ければ、お洒落センスも全く無い、今時の女子大生だ。


「あ、これこれ、友達とバイトに行った時の写真よ。大好きなロックバンドのコンサートのグッズ販売のバイトに行った時の。」

eterniteエテルニテ・・・・」

「そうeternite、大好きだったの!とくにベースのJyoiが大好きでね!あ、見せてあげるから、待ってね。」


母親はスマホを取り出し、ネットで当時のMVを見せた。


「ふうん。Jyoiって、この人?イケメンじゃん。」

「でしょう?大好きでね、ファンクラブにも入ってたの♡」

「へぇー。」


当時の事を思い出し、目を輝かせて話す母親を、莉久は可愛らしく思うと同時に、羨ましくも思った。

莉久はまだ初恋を経験した事が無い。

当然、彼氏も居ない。

興味が無い訳じゃないが、そういう感情が湧いた事が無かった。


――eternite・・・かっこいいなぁ・・・


莉久は母親と一緒にeterniteの動画を観た。


翌日


「あら38度2分。大変、莉久ちゃん、病院行かなきゃ!」


莉久は熱を出した。

ただの風邪だったので、薬を飲み、部屋で休む事になった。


――ああ、薬が効いてきたのかな・・・眠い・・・でも体が痛い・・・そうだ、eterniteの曲聴きながら寝よう・・・


莉久はスマホでeterniteの曲をかけた。


ふと気がつくと、マンションの前に立っていた。


――あれ?ここどこ?


辺りを見回しても、全く見覚えの無い場所だ。


――やだ!あたし何でこんなとこにいるの!?どうしよう!どうやって帰ろう!そうだ、スマホ!位置検索して帰ろう。


デニムのポケットからスマホを取り出すと、マンションか、1人の青年が出てきた。


――あ、あの人に聞いてみようかな。


「すみません!」


莉久は声をかける。

青年は少し驚いた感じで、莉久を見た。


――え?


見覚えのあるその顔。


――もしかして・・・


彼は、母親が大ファンだったeterniteのベースのJyoiだった。





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