君と歩いた道。

雨世界

1 美しい大自然の中で。

 君と歩いた道。


 美しい大自然の中で。


「本当に田舎だよね。ここはさ。楽しいことがなにもない」と白い息を吐きながら、君はなにもない青色の空を見上げてそう言った。

 まあ、たしかにここは田舎だった。

 見渡す限りの田んぼの風景とその向こう側には、森と、緑色の山々が広がっている。古い錆びれたガードレールのある細い道。

 高校まで通うのに、十キロは自転車で走らなければいけないし、その途中にはぽつぽつと民家があるだけで、お店はない。自動販売機が一つあるだけだった。

 でも、いいところではある。みんな優しいし、ごはんは美味しいし、のんびりしているし、楽しいことはあんまりないけど、友達はいるし、(友達と遊んでいることはもちろんとっても楽しかった)家族のみんながいるし、なによりも君がいる。

 だから私は君がいうほど、この田舎を退屈なところだとは思ってはいなかった。

「都会のほうに遊びにいこうか?」と自転車を手で押している君が言った。

「今から? 帰りは真暗になっちゃうよ」と同じように自転車を手で押している私は言った。

「無理かな? 電車の時間調べてみようかな?」とスマートフォンを取り出して、君は言った。

「家でいいじゃん。こたつに入ってさ、みかんでも食べながら、のんびりとしてようよ。晩ごはんはおもちと鍋焼きうどんだって言ってたしさ、それでそのままみんなで集まって、明日、一緒に年越ししようよ」と私は言った。

「うーん。毎年同じだけど、やっぱり今年も、それがいいかな?」とちょっとだけ未練のあるような、悩んだ顔をして、君は言った。

 君は都会での年越しを経験することに憧れているみたいだった。でも、結局はみんなと一緒に過ごす年越しを楽しみにしていた。

「私たちさ、いつまでこうしていられるのかな?」とのんびりと(君の真似をして)青色の空を見上げて、私は言った。

「みんなで一緒にいられるかってこと?」と少し早歩きをして、私に追いついて、君は言った。

「うん。そう」と私は言った。

「それは、……、やっぱり今年が最後なんじゃない?」と少しだけ寂しそうな顔をして君は言った。

「やっぱりそうなか?」と私は言った。

「そりゃそうだよ。高校生まででしょ? みんな進路は違うわけだし、町を出ていく人もいるわけだしさ、私たちだって、今みたいに学校で毎日会うってわけにはいかなくなるじゃん。ね?」と君はわざと明るい顔をしてそう言った。

「うん。そうだよね」と小さく笑って私は言った。

 こんな風に、この田舎道を通って、毎日毎日高校まで通うのも、もうあと少しだけだった。なんだか、とっても寂しい気持ちになった。どうしてだろう? あんなにめんどくさい、めんどくさいって、毎朝ずっと(まあ、それは今もだけど)思っていたのにな。

(こうして冬休みにまで、部活動で高校までいったりしているし)

「自動車の免許取ってさ。車でどっか行こうよ。みんなでさ。もう自転車は乗り飽きたよ」と君は言う。

「どっかって、どこに?」と私は言う。

「そんなのどこでもいいよ。楽しいところだよ。楽しいところ」とふふっと笑って君は言った。

「楽しいところか」と私は言った。(あんまりうまく楽しいところが想像できなかった)

「うー。寒い、寒い」と冷たい風が吹いて、君が笑いながらそう言った。

 冷たい冬の風に、私たちの首に巻いている格子柄のふかふかのマフラーと、ミルク色と紅茶色の色違いのダッフルコートの下の紺色の制服のスカートが揺れている。

「私ね、この町。好きなんだよ」と強い風の中で私は言った。

「私も好きだよ。普通に大好き」と綺麗な黒髪を冷たい風になびかせながら、君は言った。

 それから私たちはお互いの顔を見合わせて、大きな声を出して笑い合った。

 そんな風にして、今年も大晦日がやってきて、私たちはいつものように、家に帰って、集合するところを決めて、そこでみんなと会って、だらだらとお話をしながら、笑い合って、年越しまでの時間を過ごした。遠くてお寺の鐘が鳴って、年が明けて、新年を迎えた。

 美味しいご飯を食べて、(年越しそば、天ぷら、お寿司、ほうれん草のお吸い物だった)みんなと一緒に年を越して、新年を迎える。

 ……、そんなことができるのは、(君が言っていた通りに)きっと今年が最後なのだろうと思った。

「ねえ、大人になったら、なにしたい?」とこたつの中でごろごろとしている君が言った。

「なんだろう? なにがしたいかな?」と同じようにこたつの中で体を丸くして座っている私は言う。

 私は大人になったら、なにがしたいんだろう? 私は来年の年越しには、誰と一緒にいて、どこでなにをしているのだろう? そんなことを考えてみる。

(なるべく楽しいのがいい。今のように、幸せでいられたらうれしい)

「私は絶対に都会に行くんだ。マンションで暮らしたい」とふふっと笑って君は言う。

 君はすごく綺麗だから、きっとそんな(ファッション雑誌にのっているような)生活がとても似合うだろうと私は思った。

 新年になって、みんながそれぞれに新年あけましておめでとうの挨拶をしたりしながらうちの中で騒いでいる。私も君もみんなと一緒にそんな明るい輪の中にいる。

 それから、私たちはそっと顔を合わせる。

「去年もずっと、わがままな私の友達でいてくれてありがとう。今年もよろしくお願いします」とこたつのテーブルにほっぺたをくっつけている君は笑顔で言う。

「こちらこそ。去年はお世話になりました。不束者ですが、今年もよろしくお願いします」とにっこりと笑って私は言った。

 私たちはこっそりとみんなに隠れて、こたつの中で手をつないでいる。

 君とこうして、こっそりと手をつないでいられるのも、きっと今年が最後なのだろうと私は、君と顔を合わせて笑いながら、そんなことを思っていた。

 次の日、遊び疲れてみんなと一緒にそのまま眠ってしまって、朝、寒さと一緒に目を覚ますと、ガラス戸の向こうの世界は真っ白な雪に覆われていた。曇っている空からはたくさんの雪が降っている。そんな元日から雪の降る風景を見て、今日はこのあと、みんなで雪だーって騒いで、雪遊びをすることになるのだろうって、私は思った。

 その私の思っていた通りに、私の家(今年の集合場所)の庭にはこのあと小さな雪だるまがたくさんできた。

 私と君のつくった雪だるまは笑って仲良く並んでいる。

 数日後に、自然と雪が解けて、なくなるまで、ずっとずっと、楽しそうに、そこにいた。


 ばいばい。またね。


 君と歩いた道。 終わり

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