第11話 僕を見て



 主と目が合い、主の金色の瞳に映る僕を見れば、自分の瞳が忌まわしい色に変わっていた。



「あ、あるじ……見ないで!僕を見ないで」



 主にだけは、この瞳に惹かれてほしくない。

 僕は僕を見てほしいんだ。

 主だけは、この瞳に奪われたくない。

 主は僕のものだ。



 急いで猫の姿に戻り、庭の木を登れば、主と知らない人が近づいてくる。



「ユト!ごめんね、大丈夫だから下りておいで」



 嫌だ。

 僕はこの瞳のまま主に会いたくない。

 こんな事なら、僕の目なんかなくなってしまえばいいんだ。

 過去の奴らならどうでも良かった。

 でも、主には見られたくない。

 ずっと猫の姿でもいいから、大好きな主には瞳の色なんか見られたくない。



 目を隠して丸くなり、何も言わずに主に背を向ける。

 すると、主の気配がすぐそこまで近いてきた。



「ユト、大丈夫。私はユトを愛してるよ。そんな瞳の色は関係ない。だからこそ、赤い瞳に変えた。ただ、その瞳の色もユトの一部である事は確かで、完全に消す事はできない……ごめんね」



「……みゃー(主はこの色がない僕は嫌い?)」



「そんな事はないよ。言ったでしょ。私はユトを愛してる。その色があってもなくても、私はユトであれば愛し続ける。我儘になって、甘えてくるユトも愛してる。私の気をひこうとするユトを愛してる。自由なユトを愛してる。どんな姿でも、私は変わらずユトを愛してる」



 これは告白だ。

 主からの真剣な告白。

 嬉しい。

 すごく嬉しい。

 でも……逃げたくなる。

 ここで僕が主のものになったら、主は僕に飽きるかもしれない。

 手に入れたら満足して、他に目を向けるかもしれない。

 そんなの耐えられない。

 何より、この家に知らない人がいるのがその証拠。

 僕がいない間に住まわせてたのかもしれない。

 浮気……そう、浮気だ!主は僕がいないのをいい事に、浮気してたんだ。



「ん?ユト……ちょっと待って――」



「主が浮気するなら、僕の色が役に立つ。あの知らない人は僕の瞳に惹かれるから、主の浮気なんて僕は認めない」



 僕は手で目を覆いながら人の姿になり、木の上に座る主を置いて、知らない人の前に堂々と立った。

 見上げれば、目の前の人物はギンに似ていて、匂いも同じだ。

 僕の瞳に惹かれているであろうその人物は、僕から目を離さず、僕に触れようとしてきた。



「ゆ、と……ユト……ッ――」



「許さない。今のユトに触れる事は許さないよ……ギン」



 一瞬の事で、目の前で起こったことに理解が追いつかない。

 目の前にいた人物は、酷く怒った様子の主に頭を押さえつけられ、銀色のツノと竜の尻尾が出てきていた。

 そして何より、主はその人物を"ギン"と呼んだのだ。



「ユトは私の伴侶となる。今の発情しているユトに触れていいのは私だけだ。もし触れたとなれば……この意味は分かるね?」



「グッ……も、申し訳ござい、ません」



「……ふん、正気に戻ったか。ここでいつものように"すまない"などと言えば、私はお前を消すところだったよ」



 反省していると分かれば、主は僕を抱えて耳を撫でてくる。

 僕を愛でるように、瞼や頬に口づけもしていけば、最後に唇が重なり、僕は強制的に猫の姿に戻されてしまった。



「ユト、こいつは月神だよ。聖獣としては、ギンという名もあるね。月神とギンは同一人物。ギンは月神の分身体で、直接下界に干渉できる唯一の神でもある」



「……んにゃ?(ギンが月神?)」



「そうだよ。ユトは興味がなかったんだろうけど、この会話はユトの前でもしてたはずだよ」



 え……覚えてない。

 僕の前でしてたって……いつ?どこで?全く記憶にないから、会話の内容を聞いてなかった可能性がある。



 僕が首を傾げると、主は苦笑いをした後にデレッとした表情になる。

 首を傾げている僕が可愛いのだろう。

 そんな主の瞳に映る僕の瞳は、赤色に戻っており、主の今の表情は僕の瞳は関係ないのだと嬉しくなる。



「ユトにとっては退屈だったんだろうね」



 ふふん!僕は僕の瞳に勝った!主は僕のことが大好きだからね。

 色なんかに、僕の存在は負けない!主が好きなのは僕!僕も主が大好き。



「ッく……ユトが可愛い。こっちの話は聞いてないのに、ご機嫌だね」



「にゃー?(主、大丈夫?)」



「大丈夫だよ。これは自分が悪いからね。やっぱり覗くのはやめようか……でも可愛い。ユトが可愛くてたまらない」



 覗き?覗きは良くないよ。

 主が変態なのは知ってるんだけど、覗きは僕も困る。

 僕の何を覗き見してるのか分からないけど、主の変態が増すのは困るんだ。



「ニッ(覗き反対)」

 


「待って!それは色々と誤解が……いや、当たってるかもしれないけど、そんな目で見ないで」



「ニー……にゃ?(じゃあ……不審者?)」



「それは良くない!私はユトのツガイになる者で、ユトは私の伴侶だ」



 それを言ってるのは主だけだよ。

 それに、ツガイも伴侶も同じなのに、僕に合わせた言い方をしなくてもいいんだよ。

 僕にとってはツガイ。

 主にとっては伴侶。

 僕はツガイと言うけど、主は伴侶と言うだけでいいはずなのに、どうして毎回どっちも言うんだろう。

 面倒じゃないのかな。

 僕だったら面倒だ。

 そもそも、僕は主をツガイにするなんて言ってない。

 言っちゃったら、主に飽きられるかもしれないもんね。




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主公認、家出猫は主の気を引きたい 翠雲花 @_NACHI_

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