第10話 恋心(side創造神)



 飼い猫であるユトに、密かに恋心を抱いていた私は、創造神という立場を利用しまくった。

 ユトを隠し、私もユトから離れない。

 世界の事は私の眷属である神々に丸投げ。

 私がする事はただ一つ。

 ユトのツガイになる事だ。

 ユトにも好きになってもらい、私の伴侶としてユトにはこの世界の魂を育ててもらう。



 女を異世界に渡した事で、この世界の魂は減ってしまった。

 だが、魂を生み出せないわけではない。

 私は異世界の神とは違い、魂を生み出す事が可能だが、自然に生まれる魂とは違って弱い魂が多いのだ。

 そのため、私の生み出した魂を異世界に送ってやり、強化した魂をこちらで回収する。

 そうする事で私の世界は安定し、文化も取り入れて発展していく。

 更には、異世界の神々にも魂を送るだけで、恩を売る事ができていたため、異世界を覗くなど容易く、ユトを見つける事ができたのだ。



 ユトは可愛い人の子であり、特殊でかわいそうな子でもあった。

 ユトの瞳は元々虹色であり、その美しい瞳を誰もが欲した。

 ある者はユトを誘拐し、ある者はユトに近づき裏切った。

 鎖で拘束する者。

 目をくり抜こうとする者。

 殺そうとする者。

 欲に目が眩む人間という生き物は、親であろうと信用ならない。

 ユトは部屋に引きこもっていたと言うが、実際は金に目が眩んだ親が他国の王族にユトを売ったのだ。

 そして王族は、ユトを手に入れ軟禁する。

 ユトが心を閉ざし、眠ってばかりいたのは仕方ないだろう。

 ユトが目を開ければ、その瞳に抗える者などいなかったのだから。



 そんなユトを私が貰ったのは、その世界の神がユトを殺したからだ。

 私の唯一の癒しを殺し、魂まで虹色に輝く者など、世界を壊しかねないと言いやがった。

 そんな言葉を聞いてしまえば、ユトのいた世界を滅ぼすしかないだろう。

 私はユトの魂を貰い、一つの種を渡した。

 その種は人間が魔物となるものであり、当時こちらに増やす予定だった、新たな種族の実験台となってくれた。

 それが魔人である。

 今はまだ不安定ではあるが、完全なる魔人に進化した者は着実に増えていき、こちらの世界でも暮らしている。



 そんな実験をしている間に、私は愛しいユトと関係を深めていた。

 ユトは意外にも前世を気にした様子はなく、かなりの勘違いをしていた。

 自分の瞳を狙っているのだと知ってはいたものの、ただの虐めと思っていたところもある。

 何より、親に売られたのではなく捨てられたと思っているユトは、ユトを欲した王子のことを命の恩人だと思っている。

 ある意味、ユトを大切にし、本気でユトを愛していた王子は、ユトを軟禁しながらも、ユトが過ごしやすい環境を整えていたため、ユトからしてみれば安全で安心できる場所だったのだろう。

 その王子もまた変わった人物で、ユトが眠っている時に部屋に訪れ、ユトに口づけだけをして去っていく。

 ユトを誰にも見せる事なく、自分だけのものとして隔離し、満足していたような王子だったのだ。



 それを説明した時のユトは、なぜか発情している様子だったが、"私のユト"と声をかけるだけで、ユトは私を見てくれる。

 ユトは私だけを見て、私のことだけを考え、いつか伴侶となり、私をツガイに選んでくれる。

 そう信じていた。

 なのに――……



「ユト、許さない。ユトのツガイは私だよ。それ以外は認めない。ユトが私の飼い猫でありたいと言っても許さないよ」



「ッ……ここ、主の家……なんで」



 そう、私はユトをこちらに連れ戻した。

 しかし、怒りのままに連れてきたため、ユトが抱きついているギンも来てしまった。



「ギン、退け。私はユトに話がある」



「ギン!駄目だよ、僕を連れて帰って!」



「ユトの帰る場所はここだよ。何を言ってるのかな」



 ユトはこんな状況でもギンを離そうとしないため、ユトにつけておいた首輪に、魔法の鎖を繋いで引っ張った。

 そこで漸く、ユトが私の元に来てくれる。

 ユトに口づけをし、与えた魔力を全て吸い取れば、ユトは猫の姿に戻って、私を引っ掻こうとする。



「シャー!(あるじ!)」



「どうしたの?可愛い可愛い私のユト。怒ってるユトも可愛いね。あぁ……いい匂い。ユトの毛が少しゴワついてるのが気になるけど、あとでゆっくりブラッシングをしてあげようね」



 暴れるユトは、なぜか発情しかけているが、今は気にせずに私はギンに目を向けた。

 いまだに出て行こうとしないギンは、月神本体の姿になり、その場に跪く。



「創造主よ。どうか、ユトの願いを叶えていただきたい」



「ユトのツガイは私だよ。叶えているのだから、お前には関係のない事だ」



「いえ、ユトは私のそばにいると言いました」



「願いは一つだけだよ。それは叶えられない」



 私よりギンを選ぶなんて許せないからね。

 ギンも、ユトに惹かれてる。

 ここでユトにもギンにも分からせないと駄目かな。



 私は暴れるユトにもう一度口づけをし、人の姿になるユトの腰に触れた。

 ユトが嫌がる尻尾の付け根は、発情させるのにちょうど良く、ユトは可愛い声で鳴く。

 それにより、口が開いて力が緩んだため、ユトの舌に自分の舌を絡めれば、ユトの瞳が虹色になる。



 あぁ……これは美しい。

 誰もが欲しがるわけだ。

 だが……ユトは私のものだ。

 ユトの瞳もユトの体もユトの心も……全て私のものだ。



 ユトをその場に押し倒せば、虹色の美しい瞳と目が合った。

 だが次の瞬間、猫の姿に戻ったユトは虹色の瞳のまま逃げてしまった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る