炬燵つま先
めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定
会話のない繋がりがそこにあった
親が再婚して義妹ができた。
同い年のクラスメートの優乃ちゃんだった。
少し気恥ずかしくて、学校でも家でもあまり話さなかった。
でも冬休みになると、家で二人きりになる時間も多くなった。
両親は再婚したてで年末年始は互いの親戚への挨拶が続いた。
あまり連れ歩くのもダメという判断なのだろう。
部屋でテレビでも見ておいて、一つの部屋に二人でいることが多くなった。
妹だけど妹というよりクラスメート。
いきなり妹と言われてもわからない。
クラスでもあまり話さなかったし、好き嫌い以前の問題としてどう接すればいいのかわからなかった。
ただ妹だから他のクラスメートの女子よりも優しくしなくちゃいけないとか、そんなことを思っていたのは確かで。
その特別扱いしようという気が空回りして、うまく接することができなかった。
優乃ちゃんもどうすればいいのかわからなかったのだろう。
登下校時に僕のあとを三歩遅れて歩く。
それが僕らの距離感だった。
その冬休みまでは。
――ゲシッ……ガシッ
コタツの中では僕と優乃ちゃんの攻防が続いていた。
表向きは互いにそっぽ向きながら寝転がってテレビを見たり、ゲームをしたり、読書したり。
けれど僕らは領有権争いに必死だった。
つま先が鋭くぶつかりあい、互いの足を弾いていく。
コタツというのは万能暖房器具に思われがちだがそうではない。
コタツ布団のズレがあれば隙間風が入り込むし、赤く光る真下は暖かいが、そこに足を置き続ければ熱くなる。
しかし端っこに退避させ続けると物足りない。
だから真のコタツ
同じコタツにコタツ決闘者がいれば争いが起きるのは必然。
優乃の奴め。
いつもは大人しい振りをしていたが、ポジショニングがかなり図太い!
互いに分け合う精神はないのか!
――ゲシッ……ガシッ……ガチリ
僕の右足が優乃の両足に挟まれただと……まさか!?
そのままリフトされて赤く光る部分に急接近する。
「あつっ!?」
「……ぷっ」
コタツ決闘者業界でも珍しいシザーズリフトという大技に、僕は慌てて足を引いて灼熱地獄から逃れた。
向こう岸では優乃の嘲笑が噴き出していた。
「くっ……」
ここで怒ってはいけない。
兄だからではない。
人として、コタツ決闘者としてのプライドの問題だ。
コタツ内での戦いをコタツの外に持ち出すことは厳禁なのだ。
このような世界の常識を今更説く必要はないだろう。
そんな遠慮無用の過酷なデュエルを冬休み中、繰り返していた僕らの間にはいつしか兄妹の絆を超えた友情が芽生えていた。
戦友と書いて妹と読むのだ。
冬休みが終わって学校が始まると、僕らの登下校の距離は隣になっていた。
そして大学生になって一人暮らしを始めた部屋になぜか優乃が入り浸っている。
――ゲシッ
うちの部屋にコタツはない。
というか今夏だしあっても出さない。
ただダイニングテーブルの下で蹴られただけだ。
「はい醤油」
「ありがとうお兄ちゃん」
「なあ優乃。お前その足癖の悪さいい加減なんとかしたら? 普通に口で言えばいいだろ」
「大丈夫。お兄ちゃん以外にしないから。やっても伝わらないし」
「まあ目玉焼きはソース派なのに、アジフライは醤油とかわかりにくいからな」
僕と優乃はつま先を当てるだけで以心伝心できる。
長年コタツ決闘者としてしのぎを削り続けた結果だが、コタツの外に持ち出すのは主義に反するのだが。
「やっぱりお兄ちゃんと一緒だと楽だね」
「優乃様はそうかもな」
「私ここにルームシェアすることになったからよろしくね」
「ふーん、そうなのか……ん? はぁ!? 聞いてないぞ!」
「えっ? お父さんとお母さんにはだいぶ前に言って了承もらってるよ」
「俺は聞いてない!」
「そうかな。何度もこうやって伝えていたのに」
――チョンチョン
と足をつま先で突かれる。
確かに最近こうやって無意味に蹴られることが多かった気がする。
痛くもなかったし、用があるようにも思えなかったので気にもとめなかったが。
「くそっ! いつからだ」
「一週間前から」
「すでに移住済みだと!?」
「いや……私も少しずつ荷物置いていったんだけどね。いつ聞かれるかな〜とわくわくドキドキしながら」
「そんな計画的な犯行だったとは」
「さすがに荷物運び終えてもなにも聞かれないとは思わなかった。お兄ちゃんは私に気を許しすぎじゃない?」
「……クソ! そういう大事なことは口で言えよ!」
苦し紛れに吐き捨てると優乃がきょとんとした。
その後ニヤリと悪い笑みを浮かべる。
――チョンチョンチョンチョン
「なんだよ?」
「じゃあ言葉にするけど私との同棲は嫌なの? マサト君は」
「うぐっ……すでに一週間以上も入り浸っていて嫌もなにもないだろ」
「言葉にしろって言ったのはマサト君なのに」
言葉にされたほうが強烈だった。
僕としてこのまま黙り込むしかないのだが。
「いつかマサト君もちゃんと言葉にしてね」
「……わかってるよ」
炬燵つま先 めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定 @megusuri
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