世、妖(あやかし)おらず ー擽尖(りゃくせん)ー
銀満ノ錦平
擽尖(りゃくせん)
靴下を履く時、靴を履く時に私の足のつま先が隠れることにいつも不安を感じる。
シュレディンガーの猫…程ではないが、隠れると不安になる。
もしかしたら私の足が何か別のモノに入れ替わってるんじゃないか。
ほんとは私の足は知らないヒトの足に入れ替わっているんじゃないか…そんな不安に苛まれる。
なら、裸足でいれば安心という結論になる。
ただ流石に外に出たり仕事に行くには靴が必要だ。
だから履かないといけない。
玄関は家と外の境界線だ。
この境界線を靴と共にでるということは私の縄張りを出ないといけないということだ。
目の前にあるドアというものが無ければ私は、家に出ることを躊躇してしまうだろう。
そりゃあ泥棒がピッキングで開けてしまったり、何者かが恨みでドアを壊す様な事があれば流石にこのドアも敵いっこない。
しかしそういう犯罪的や私的な理由で壊されることが無い限り私は、ドアを信用している。
このドアという細くも太い立体的物質的境界線に我々は守られているのである。
ただそれだけではない。
もう一つは外の汚れ、穢れを境界線の中に入れないために必要なのがこの靴である。
この靴は、我々の足という歩くという必要的運動行為に不可欠な部位を汚れから守るために、作られた所謂、靴の鎧である。
足の裏に汚れなんて付いて家を歩きたくない、汚したくない。
ほんとに便利なものである。
ただ、足が隠れるのが怖い。
足がこの中でどうなっているのか、感覚は分かるが手とは違って確認がとてもしにくい。
手は感覚がとても研ぎ澄まされているから安心するが足はわからない、指も靴を履いてると中々動いてるかも分かりにくいしそこでどういう動きや形になっているか分からない。
怖いのだ。
隠れていることが、鎧の中身が見えないことが。
サンダルなどは中途半端に足を出すので苦手で人生でそんな履いたことはないし一人暮らししてから余計に自ら履くことを止めた。
ちゃんと履いていることに満足感を覚えるのだ。
ただ不安もある…異様な感情であることは自覚してるが私生活で履かないわけにはいかないので履いている。
そしてふとたまに、違和感を感じることがある。
擽ったいのだ。
それが気持ち悪くて、たまに脱いで確認するが問題はない。
ただそれは脱いで目で確認できるからで、また履き戻したら見えないので不安になるしまた擽ったくなる。
足に何かが起きているのかもしれない…そう思うとつい靴を脱ぎたくなる。
靴を履いている場所だと何処でも脱ぎたくなる。
脱げばいいのにと思うかもしれないけど公共の場で突然脱ぐのもなんか可笑しいというか違和感あるからプライドとかも合わさってワザと脱いでない。
しかし擽ったい。
不快になる。
何日も何日も何日も何日も何日も…。
そしてある日、靴を履こうとすると靴の中で何かが蠢いているような影が見えた。
その時は気のせいかと靴を履いたが以前にも増して擽ったい…擽ったいどころか何か足が動かされてるような感触を感じてしまった。
動くというより何か変形してるようなというかまさに手の指の関節が一つ一つ動かすときの感触と一緒というか…。
裸足の時ならいざ知らず、靴を履いている時の感触とは全く違う。
今までこんな感触になったことがない。
もぞもぞするとかいう次元じゃない。
靴の中で何が起きているんだ、何かいるのか!
私は焦りながらその靴を脱いで中を覗いたが何もなかった…。
いや、無かったのではない…見えなかった。
漆黒に包まれてるような…まるで洞窟の中を覗いているような…。
私はその漆黒の内部を永遠と覗いていた。
周りから見たら変な光景だったと思う。
それでも見続けてしまった。
見続けていると漆黒から小さな光が見えた。
その光は2つ横並びで、まるで目の位置に見えてしまった。
いや、多分目なのだろう?
それがこちらを覗いていた。
お互いに目があっていたのだと思う。
瞬間、靴から影が飛び出し一瞬だがその影の正体を見ることが出来た。
黒い丸に目が2つあり、周りに無数の手が付いていた。
しかし姿が見えたのは一瞬で気が付いたら消えてしまっていた。
あれ以降、靴を履いても擽ったくなることがなくなり、何毎もなく私は履くことに安堵を覚えるようになった。
ただ外を歩いていたらたまに靴を脱いで何か確認してる人を見かける。
靴に異物が入ることはあるが、皆さんは靴を裏返しして終わるかもしれません…しかしもし足が擽ったくなったら靴の中の漆黒を覗いてみるのもいいかもしれません。
異物ではなく魔物がはいっているかも。
世、妖(あやかし)おらず ー擽尖(りゃくせん)ー 銀満ノ錦平 @ginnmani
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