世怪事変

# 0 1

東京・新宿区。

異能専門学園『能冥のうめい学園』の中等部校舎にて。


三年三組の教室では、一人の少年が机にうつ伏せていた。

センターパートにされた灰色の髪に、翡翠色の美しい瞳。少し幼さが残った整った顔立ちの少年だ。


少年の名は京洛きょうらく亜紀あき、異能者の少年だ。


亜紀は灰色の髪を揺らしながら起き上がる。窓から照らされる夕日に灰色の髪が明るく照らされた。そのまま、翡翠色の瞳は、窓の外に向けられる。


「もう下校の時間か・・・すっかり寝てた」


亜紀はそう呟きながら席から立ち上がり、机の横に掛けてあった学生鞄を手にとって教室を出た。そのまま、真っ直ぐ玄関の方へと向かう。

静かな廊下に、亜紀の足音だけが響く。


もうすぐ玄関というところで、亜紀は一人の青年とすれ違った。

右目にモノクロをしており、綺麗な白髪を丁寧に撫でつけているスーツ姿の青年だ。

青年はすれ違った亜紀を一瞬だけ見たが、すぐに視線を戻しそのまま亜紀の横を通り去る。


亜紀は見たこともない青年の姿に眉を潜めたが、すぐに前を向いて再び足を進める。

自分の靴箱からスニーカーを取り出し、つま先でトントンとしながら履く。そのまま、靴箱を出て寮に帰ろうとして、声をかけられた。


「あれ、亜紀。起きたんだね」


そう声をかけてきたのは、朱色の長髪を一つにまとめた亜紀よりも小柄な少女だ。少女は靴箱横の花壇に、水をやっていたようだ。


「チューリップ、咲いたじゃねぇか」


「うん!毎日、ちゃーんと水をやってたからね!クラスのみんなで育ててたんだもの、咲いてくれて嬉しい!」


少女はそう言って、太陽のような明るい笑みを浮かべた。じょうろを置き、亜紀に近くへ駆け寄る。

少女は背負っていたリュックを背負い直しながら、亜紀の隣に並んで歩く。


「あ、穂華ほのか。今日の授業でやったプリント見せてくれ。明日出さねぇと反  省文書かされる」


「えー!また!?亜紀は頭いいんだから一人で出来るでしょ?いっつも授業は寝てる  し・・・・・・先生もあれで成績がいいだからどうしたものかって、呆れてたよ?」


「授業なんか聞いてても退屈なだけだろ、聞いてたら眠くなるんだよ」


「もー!ちっちゃい頃からずーっとそうじゃん!なんにも変わってない!」


「そう簡単に変わるもんなのか?」


「変わるもんなの!」


穂華と呼ばれた少女は、朱色の髪を揺らしながら頬を膨らませる。

少女の名は来栖くるす穂華ほのか、亜紀の幼馴染だ。


穂華は欠伸をする亜紀をしばらくじーっと見つめていたが、「そういえばー」と言いながら、スカートのポケットからスマホを取り出した。


「今日の夜は暁月あかつきだって。夜は外に出れないねー」


「夜の外に用とかあんのかよ?てか、穂華も寮暮らしだから七時以降は外に出れねぇだろ」


「うーん、そうだけどー・・・ま、暁月の夜は危険だから仕方ないけどね。それ以外の夜にこっそりコンビニ行こ!」


「んで、アイスを買ってブクブク太るのか」


「なんでそんなこと言うかなー亜紀は。私じゃなかったら殴られてたよ?」


「女のパンチなんか効くか。俺は鍛えてんだよ」


「はいはい」


適当に亜紀をあしらう穂華に、亜紀が小さく舌打ちをする。穂華はそんな亜紀に苦笑しながらも、嫌そうな表情はしない。

亜紀はそんな穂華を見ると、「フンッ」と鼻を鳴らしながら先を歩く。

________真っ赤な夕日が、二人の影を照らしていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世怪事変 @natu_0106

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画