南極の女王

坂崎文明

女王のつま先

「とりあえず、私の左足のつま先をめなさい。そうしたら乗せてあげるわ。U・F・O」

 

 髑髏ドクロ模様の水晶の椅子に座り、赤いバニーガール風ドレスを着た〈南極の女王〉は左足を中国人起業家ウーロン・マスクの顔の前に突き出した。

 細身だが美しい脚の曲線が何とも艶めかしい。


「お安い御用です」


 ウーロン・マスクは優雅で丁寧な仕草でひざまずいて、彼女のつま先をペロリと舐めて、彼女を見上げた。


「あなたは天才起業家としての人生を、〈水晶の夜〉の人類六十億人の殺害によって棒に振った。そこまでして、この南極の真実が知りかったの?」


 ヴァルキリー・シェルバーンというのが〈南極の女王〉の本名らしいが、彼女の秘密結社フランボワーズの47階梯の権限がないと、ルドルフ・ヒトラーの第三帝国の遺産である〈UFO型反重力飛翔体〉にも乗れない。

 俺はまだ33階梯で到底、そんなことは叶わない。だから、六十億人の人類殺害の汚名と残り人生をと引き換えに、南極の秘密が知りたかった。

 正確には、この南極の氷壁の外側の世界が見たかったのだ。


「僕がまだ、幼い頃、僕のおじさんが地球平面説フラットアースを教えてくれた。そんな馬鹿なことがあるはずないと思いつつも、僕は結局、ここまで来てしまった」


 地球平面説フラットアースによれば、この世界は平坦で南極の氷壁によって外界と隔たっているという。

 地上百キロメートルの所に、天蓋と呼ばれる水で出来た謎のドームがあり、ロケットを打ち上げても、その水のドームに阻まれて水しぶきをあげて、弧を描くように海上に墜落してしまう。

 そういう映像が動画サイトに多数アップされていた。


「仕方ないわね。一緒に来なさい」


 純白のマントを翻し、女王は南極基地の軌道エレベーターに向かった。




   †

 



 ピラミッド型の南極基地本部から上空二百キロメートルへは軌道エレベーターという円筒形の乗り物で移動する。

 そこは、この地球と呼ばれる世界の天蓋ドームの上の世界だ。

 軌道エレベーターの宇宙港から〈UFO型反重力飛翔体〉に搭乗した。

 〈南極の女王〉とその護衛などが搭乗しており、総勢百名規模の葉巻型中型宇宙船である。


「では、出航するわ。見たら、びっくりすわよ」  


 女王は瑠璃色るりいろの瞳で期待させるような事を言った。


「どんな世界が見えるんですかね」


 俺は数分後に見た光景を言葉で表現できなかった。

 世界にはどうやら、シャボン玉の様な無数のドーム世界が存在していて、それが青い海のような物に浮かんでいた。

 無数のドーム世界はどこまでも続いていた。

 人生の全てを犠牲にして、余りあるビジョンを俺は手に入れた。 

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