第2話 逃げた先
「新たな勇者誕生! 驚きの魔力量に期待が高まる」
そんな見出しの新聞が、街にバラバラと配られた。
この街「ホール」は、世界の中心地。情報が伝わるのが早く、たくさんの人々に、一瞬で情報が共有される。
新聞でも、魔力液晶で作られたテレビニュースでも、ラジオでも――。
「うっ!」
ミラはどさりと倒れた。
足がズキズキと痛む。辛い。苦しい。
「やっぱり、お前の言ってることは嘘だったんだな!」
ミラの金髪が泥で汚れているのを笑いながら、一人の男子と取り巻きたちが言っている。
何とか力を振り絞って、ミラは立つが、すぐに肩を強く押されて倒れる。
「結局何もできねーのに、女のくせに生意気なんだよ!」
倒れたところへ、お腹を踏みつけられる。
ミラが、手でお腹を押さえて抵抗しようとするも、男子が不機嫌そうに舌打ちをする。
「勇者様に逆らってんじゃねーよ!」
「そーだそーだ!」
取り巻きが言い出す。
ミラは、泥だらけの顔を拭いながら、男子を睨みつけた。
勇者ゼア。
ミラをずっと特権だけでいたぶってきた、ミラと同い年の男子。
「見てんじゃねー」
蹴られ、ミラは目をつむった。
最悪だった。ニュースに、一人だけミラが混じっていることを報道されてしまったのだ。
全員、蹴飛ばされるのを見て見ぬふり。
仕方ない。そんなふうに、思っているから。
(許さない……絶対に、こんな世の中間違ってる……!)
ミラは、ゼアの足を掴んでどかし、浮遊して逃げ出す。
「規則違反だー」
「いけないんだー」
「生意気なくせに、犯罪者にもなるのかー?」
後ろから、はやし立てる声。街で魔力を使うことは禁止されている。
しかし、ミラはもうそんなことどうでもよかった。
この苦しい世の中を、粉々に破壊してやりたい。もうこんなところにいたくない。誰にも、私を否定されたくない。
♦
魔力切れになって、ミラは空中で不安定になり、そのまま地面に投げ出される。
ずるずると這いずってから、もうだめだ、と、地面に身を預けた。
深い森。街から遠く離れた場所。
ここはもはや、魔王軍のテリトリーに近い。
樹海だ。
「……はは……」
乾いた笑い声。背の高い木がたくさんあるせいで薄暗い。しかし、その薄暗さが、逆にミラを安心させた。
「あー……」
魔力切れの影響で疲れすぎて、まともに声も出せないようだ。
だるい体から力を抜いて、目を閉じる。
(ごめん、お母さん……私、もうだめなんだ。こんな世界に縛られて生きるくらいなら、ここで死んだ方が、ましなんだ)
段々、暗い視界に意識が遠のいていき――。
♦
「……あれ?」
気づいた時には、ミラは豪華なベッドで目が覚めた。
ふかふかと寝心地がよく、すっきりとしている。
「目が覚めたか」
声に、ミラは思わずビクリとして、声のした方に目を向けた。
赤い瞳、尖った歯、背中から生えた羽を持つ、がっしりとした男性だ。
どう見ても、人間とは違う異質な存在に、ミラは驚く。
(この姿……多分、魔族だ。私、あんなところにいたから、連れてこられちゃったんだ)
状況を分析する。
しかし、その男の魔族は、ミラを食べようとはしなかった。代わりに、ぺこりと頭を下げてくる。
「すまん。少しだけ、血をもらった。だが、これ以上君に危害を加えることはしないから、休んでから人里に降りるといい」
「え?」
ミラは、想像していた魔族とは全然違うことに驚いた。
魔族っていうのは、もっと凶暴で、獰猛で、まるで獣のような、人間を捕食する恐ろしい存在だと、教えてもらっていたからだ。
「じゃあ、俺は離れるから……」
「――待って、ください」
思わず、魔族を呼び止めた。
ミラは、振り返った魔族に訴えかける。
「私、帰りたく、ないんです。帰ったとしても、私は、私は……!」
涙があふれ出す。
ただ事ではないミラの様子に、魔族はすぐにこちらに来て、ミラを見つめた。
ミラが落ち着くのを待ってくれている。
ゆっくり、息を吐いて、ミラは涙を拭う。
「少しずつでいいから、何があったのか、話してほしい」
優しい魔族の声に、ミラはうなずいて、口を開いた。
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