第2話


「すいません、秩父警察の田辺と申します、

少し話を伺っても?」

 私は雪かきを辞め、彼に応じた。

きっと茂の事である。

「はい、茂の事ですか」

 警官は二度頷く。

「よくご存じで、話が早くて助かります。

三日前から行方が」

「はい、父から聞きました」

「そうですか、お父さんはご存じで」

「はい、恐らく彼の父に訊いたのだと」

「なるほど」

 その一瞬の間に警官は

ある言葉を持ち掛けた。

「最近物騒ですよね」

 その言葉は曖昧模糊としたものだ。

私はそれとなく、そうですねとだけ返した。

「彼の無事を心から願っています、

笹山さんもお気をつけて、お足元も」

 そう言って彼は頭を下げ、背中を向けた。

 そのあと私は思ったよりも早く雪かきの

めどがついたこともあり、

裏の廃車置き場へと足を運んだ。

 一面が白くこれまた大変だと

ため息をついた。

 雪かきがすでにされていたとされる、

人為的に雪が積まれた箇所を見る。

その場所に違和感を覚えた。

その膨れ上がりはまさか。

自分の後頭部に衝撃が走った。

どもった音も聞こえた。

 うっすらと意識がある。

悶えながら地べたにしがみつく。

私を見下ろすのは父だった。

「父さん」

 父の口角が上がった。

その笑みは気色の悪いものであった。

「見られちゃ困るぜ」

 もう一度、顔面に衝撃が走る。

躊躇なくその音が響く。意識がよりよどんだ。

「俺を万引き扱いしやがったんだ」

 その声を絞りだす。

「ど、うしてそこまで」

 完全なる笑みを浮かべた。

「本当に万引きしてたからだよ、

そんでそこに埋めた。雪で窒息だ、

我ながらにいい方法だ。血も残らないし、

雪が減ったころに淵に捨てに行けばいい。

殴るのはだめだな、血が残る」

 こんな父親は見たことがなかった。

 確かに私から流れ出す血、

その景色が白から黒に変わる。

「雪に隠せばいいか」

 


 埼玉県秩父市の笹山オートの

五台の廃車から八人の遺体を発見、

その一人は犯人である

笹山栄徳の息子であると判明。

古いもので五年前に殺された人物の

遺骨も見つかっている。

 

 またその翌週、

秩父市では記録的な大雪に見舞われた。

警察の調べによると笹山永徳は

雪を見ると血を連想すると発言している。

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死体は雪に隠せ 雛形 絢尊 @kensonhina

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