第9話 追撃派の女王を魅惑してしまった

 スピン王国の謁見の間に平伏している賢者マックス・プランクに対して、ポリア・ポドルス女王は、玉座から声をかけた。

「賢者プランク殿。前にも言ったように、魔王に直属して、我らの国を略奪を働き、多くの臣民の命を奪った魔族達を信じることができると思いますか?彼らが我々に恨みを持ち、また、魔王が現れれば結集して侵攻してくるのではありませんか?それに、我々に復讐しようとしている好戦派が、あなた方が倒した魔王の元妻を担いで結集しているそうではありませんか?我々と同盟した魔族達も、彼らに脅威を感じているようです。今、我々がすべきは、我らに味方する魔族の諸部族とともに、危険な魔族の部族をせん滅することではありませんか?」

「彼らは、私が何とか説得するつもりです。少なくとも、私が帰るまでお待ちいただけませんか?」

「彼らを説得できる可能性はどのくらいありますか?時間を浪費しては、彼らに有利にするだけですよ。」

"納得させられそうもないな。どうしたものかな。"とマックスは床を見つめながら、悩んでいた。

「賢者マックス殿、マックス準侯爵殿を、このままでは失礼ですね。別室でお話をさせていただきましょう。」

と言って玉座を断ってくれた。マックスはホッとした。魅惑スキルを使いたいところだったが、大勢が見ている中、女王の態度が激変してしまっては怪しまれかねない。別室に行けば、護衛兵や側近がいるだろうがここの比ではない。魅惑スキルを発動しても、女王の態度が激変したとしても目立たない、口留めはできる。


 侍女に案内されたのは、女王の執務室だった。そして、長椅子に座り、待つように指示された。それにおとなしく従って、しばらくおとなしく待った。しばらくして女王は来た。そして、彼の向かい側、テーブルを挟んだ椅子に座った。"どうしたものか。魅惑のスキルを使うか?"と自問自答した。

「どうしました?私の顔に何かついていますか?」

「近くでご尊顔に接し、あらためてお美しいと思い、つい視線を釘付けにしてしまいました。誠に失礼しました。」

「そのようなお世辞を言われても、何も褒美はだせませんよ。」

と言ったが、まんざらでもないようで、ちょっとしなをつくって、微笑んだ。

"本心ですよ。"豪華でピカピカというようなことはないが、趣味の良い、かつ質の良い事が一目瞭然な調度品が置かれ、装飾品で飾られている狭くはないが、大広間ではない部屋の中でも、彼女は決してかすんでいない、存在感を放っていた。"美人ですよ。"と思ったが、"でも、俺の好みではないんだよな。"と思った。


 赤い髪に近い金髪で、すらりとした、女としては長身、肌はきれいだ。顔は知的ともいえるが、ややきつそうな眼付、顔立ちだが、かなりの美人だはある。衣服は容姿を隠しているから、胸の、尻の、ウェストがどうかを見せてくれない。それだけに、魅惑スキルの使用を少し躊躇した。


 それでというわけではないが、

「陛下の治世の下では、奴隷にも教育の機会をあたえているとのことで、大変感銘を受けました。」

と語りかけた。てっきり、直ぐに魔族全体との共存を説得してくると思った女王は少し驚いた。それでも、国の自慢の施策でもあり、

「庶民への教育は、祖父の頃に始められ、父が拡張したものです。私はそれを進めているだけですわ。ただ、奴隷にもと思い、奴隷主たちに義務付けをしました。人材の登用などに成果があがっていますが。」

「それだけではなく、陛下の奴隷の人権への考慮がよくわかります。」

 彼がそのことを話題にしたのには、理由があった。"原作で勇者と結ばれた美少女の一人がスピン王国出身で…名前は忘れたが・・・、奴隷の境遇のひどさの一つに、僅かしか教育を受けていないと言っていたんだよな・・・。この世界では、かなりの優遇・・・スピン国ではその意味で一番先進的だが・・・。"だったからである。そこまで思って、"しまった。あの美少女達のこと忘れていた。"とはたと衝撃を受けた。焦りを押さえようとしたところに、

「我が国を褒めていただくのは嬉しいですが、本題に入りたいと思いますが。」

と女王が切り返してきた。

「奴隷達への、正確には子供の奴隷達、奴隷の子供達への教育と同様、彼らに我々との共存の利益を教えるのであれば可能です。」

と彼が答えると、"それはわかるわよ。でも、友好的な魔族達との共存で十分でしょう。多少拡張してもよいけれど。"と思った彼女だったが、突然心臓の鼓動が大きくなった。そして、彼に不満は持たれたくないという思いがこみ上げてきた。

「お話をお聞きしましょう、もっと。」


"魅惑スキルが効いたか。"

 躊躇していた魅惑スキルを思わず発動してしまつた。"まあ、その予定だったけどな。"

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