「君のために花道を。」
雪兎。
第1話 別れと出逢い
青年は走っていた。
ただ一点を見つめ、走っていた。
ある有名な物語の主人公のように友のため、走っていた。
そして青年はたどり着き友に駆け寄った。
「
『
花という者の声は届かない。もうこの世の者ではないから。
『華』もいつかは落ち、土に還る。彼のように。
二人の結末はあの物語のようにはいかなかった。
お互いの友情を確かめ抱き合うことも、それを見た王が改心することも、なかった。
青年は嘆き悲しみ、自身を責め、友を責めた。
そして夜が明けた。青年はもう泣いていなかった。そして決心もしていた。
「もう・・あのような間違いは犯さない、今度こそ・今度こそは・・」
路地に足音が響いていた。誰のものかはわからない。少年は凍え死にそうだった。
少年は死ぬ事自体には恐怖はなかった。だが少年は誰かに必要とされたかった。
でも、もう叶わないのだろうと目を伏せた。
「・・君、名前は?」「えっ?」
「僕は
「あぁ、ごめんね?急に知らない大人に話しかけられたら、戸惑うよね?」
少年は考えた。そして今まで渦巻いてた何かを思い出した気がした。気がしただけだ。
「・・僕は、その、
「ー花君か。その、寒いよね、近くに家があるから一緒に来ない?」
ーそうして急に始まった椿さんとの不思議な暮らしの
少年は青年の前に仁王立ちして眉間に皺を寄せ、その青年を睨みつけた。
「椿さん・・。」「何だい?」
「いっつも言ってるじゃないですか!洗濯物はすぐに出す、ゴミはゴミ箱、物は元の位置にって!それなのに・・」
花は部屋を見回し、溜息を付いた。
「なんですかこの有り様は!」
花と椿がいた部屋はとてもひどい
あの日から約一年。二人は同じマンションに住んでいた。そして花と椿の部屋は隣同士である。
そして花が椿と過ごしていくことで分かったこと。それは椿が生存することに関する能力が欠除していること。
「この有り様と言ったって私はただいつも通り生活していただけさ」
「いつもは僕が定期的に掃除をしているから綺麗なんです!少しは自分でも片付けてください!」
椿はヘラヘラとしながら、
「まぁ、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。折角の綺麗な顔が汚れちゃうよ〜」と言った。
あなたが汚させてるんでしょうが、と言いたいのを何とか抑え込んだ。
「椿さん、そこ退いてください。掃除するので。」
「面倒臭〜い」
・・・・・。
「部屋の掃除の前にあなたを綺麗にしたほうが良さそうですね。」
「花君怖いよー」
めっちゃ棒読み。
僕は椿さんの頭を近くにあった雑誌ではたき落とした。
気持ちの良い音が部屋に、いやマンション中に響いた。
あの日、僕は椿さんに運良く拾ってもらえ、一年前からこのマンションで暮らしている。
今年から僕は十五になったのでもう一人でもいいだろうと別居している。それでも僕は
未成年のため外では働けない。なので今年から椿さんの仕事を手伝う代わりに、ちょっとした給料を貰っている。
いわゆるバイトというやつだ。だけど椿さんの仕事は何だか普通ではない気がする。
椿さん曰くこの仕事は『何でも屋』的な感じらしい。
確かに色んな人が来ていろんなしょうもない仕事や探偵的な仕事を依頼される。
だが皆依頼に来るとき椿さんのことをいろんな名前で呼び、いろんな名目で依頼していく。
何でも屋、探偵屋、花屋、服屋、飯屋・・・
そのことについて椿さんに聞いても、あだ名みたいなものだ、と毎回はぐらかされる。
僕がこなすのはちょっとした接客と事務だ。なので本来、椿さんがどのように依頼をこなしているのか僕はよく分かってない。
そのようにモヤモヤする日々を送っている中、掃除の途中に椿さんに話しかけられた。
「花君。」「なんですか、掃除の邪魔なので話しかけないでください。」
「辛辣過ぎない⁉」その言葉を無視し掃除の続きを行おうとすると、
「明日から花君にも依頼をこなしてもらおうと思うんだけど」
一瞬思考が停止した。そしてゆっくり理解し、椿さんに向かって振り向き、こう返答した。
「今この場でこの瞬間に、話すことじゃないですよね?
そういうのは少なくとも人が部屋を掃除してるタイミングでは言いませんよ?」
椿さんはまたヘラヘラとした顔で頭に手を置き
「いや本当は前から言おうと思っていたのだけれど、すっかり忘れてて。」
この人の言動に一々難癖つけようとは思わないが、毎回とても苛つく。
それにそういうのを前日に言われても整理が追いつかない。
「それでどうして僕に依頼をこなすのを手伝わせようと思ったんですか?」一旦掃除を中断し椿さんの前に座った。
「最近依頼の量がとっても増えてきて僕一人じゃこなしきれなくなってきたから?」
なんで疑問形。だがその理由は何か不自然だ。なぜ僕に手伝わせようと思ったのだろう。
僕は未成年だから正社員になるのは無理なはず。だからあくまでバイトとして働いてきた。
椿さんは僕の考え込む仕草を見つめた。
「なんで
名指しが入ったから、だよ。」
名指し?余計にわからなくなってきた。
僕は普段依頼人とは少ししか顔を合わせないし依頼も僕がこなしてるわけでもない。
そんな僕を名指しするなんて一体誰が?
「やぁ『椿』さん、今度からは部屋の鍵をちゃんと閉じるようにしといたほうがいいよ?」
「なっ⁉」誰だ⁉
椿さんは溜息をつきその人を見てこう言った。
「はぁ・・、ドアが空いてたからって勝手に入ってくるのはどうかしてると思うよ。『依頼人』さん」
その人は椿さんの言葉を無視し僕を見た。
「なっなんでしょうか?」
その人は僕を凝視すると急に満面の笑みになった。
「はじめまして花君、私は
「はじめまして・・・?」
何だこの胡散臭そうな人。それにNKって・・?
「君のために花道を。」 雪兎。 @yukiisagi
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