第2話 出会い
オタクに優しいギャル、日野明里との出会いは1ヶ月ほど前、入学式から数日経ったある日のことだった。
「では、これで連絡は以上です。みんな気を付けて帰ってね、さようなら〜」
授業で疲れたみんなをちょうどいい具合に焦らす終礼が終わり、時が一気に動き出す。
放課後は、部活、委員会、バイト、塾など人それぞれの時間が待っていて、教室は軽い空気に包まれている。
まだ行けてないしアニメイトにでも行ってみるか、と時間の潰し方を考えながら帰りの支度をしていると、すぐそばの会話が耳に入ってきた。
「明里〜今日みんなで一緒にカラオケいかない?ウチ今日めっちゃ歌いたい気分なんだよね!あとこの前もらった割引券の期限今日までだし」
「え!クーポンあるの?!あ、いや、ごめん、私今日は用事あるんだ」
「明里が遊びの誘い断るのなんて珍しいね。もしかして…彼氏??」
「い、いや!そんなんじゃないから!ほんとに!」
「ふーん怪しいなあ。まあ詳細は明日じっくり聞くから。楽しんで〜」
「ほんとに違うのに‥」
顔を赤らめながらぼそっと呟く日野さんに一瞬見とれてしまった。ものすごく可愛い。
今の、俺でなきゃ聞き逃しちゃうね。
いかにもオタクが思い浮かべそうな言葉をかき消し、視線はまだ顔を赤らめたまま片付けている彼女に。
でもやっぱり彼氏、いるんだなあ
別に日野さんのことが好きな訳では無いが、この手の話を聞くとなんとなく気が沈んでしまうのは自分だけではない、と思っているが実際どうなのだろう。
自分の場合は、キラキラした学生生活を過ごしている彼女への羨望がほとんどなのかも。
あんなに痛い目にあってきたというのにまだ自分は「青春」というものへの憧れを抱いているのか…
そんな事を考えながら、僕は教室をあとにした。
「ふう、やっとついた。やっぱりわかりにくいところにあるもんだな、アニメイトってのは」
まだ市街の作りに慣れていないせいで、アニメイトを見つけるのにだいぶ苦労した。
どうやら最新の地図アプリは、普段外に出ないオタクには対応していないらしい。
機械が人間に取って代わる時代は、まだまだ先っぽいな!!
着替えてから来た上に道に迷ったせいでもうまあまあな時間になっていた。
ラノベでも買って帰ろう、とキョロキョロしながら店内を歩いていると、すぐにお気に入りのラノベの在処を見つけた。
そのあたりを見ていると、大好きなラノベ作家の新作が目に止まった。
展開としては結構ベタだけど、文章力が半端なく、読者を引き込むことができる作家さんなのだ。
あと、エッチな部分の表現が物凄くリアル‥
これは即買い不可避、と棚に手を伸ばすと、横からきれいな手がもう一つ…
「あ、あ、ごめんなさい、周り、見れてなくて」
普段全く喋らないせいで、変に上ずってしまった。死にたい。
「い、いえ!こちらこそ、すみません、先に、どうぞ」
ん…この声…いや、そんなはずはない。
聞き馴染みのある声に顔を上げると…
「ひ、日野さ、」
だめだこれは触れてはいけない。とっさの判断で自分の口を抑える。
だが、遅かった。
いや、こうなる運命だったのかもしれない。
「あ…瀬戸、くん…」
「え、なん、で、僕の名前、」
「いやいや、クラスメイトじゃん笑笑 確か、席右後ろ?近かったよね」
だめだ、そんな顔で話しかけられたら、しかも僕の存在を知ってくれているなんて、
やばい、心臓が持たない。何か言わなくちゃ
「ちょっと、大丈夫?フリーズしちゃってるよ?笑 瀬戸くーん?」
人懐っこい笑顔で僕の目の前に手を上下に動かして見せる。
いや、大丈夫、ありがとう、となんとか平静を装うが、どうして良いかわからなかった。
「えっと、なんでこんなところに?」
「私がこんなところにいるの、やっぱり意外?」
「い、いや、それはその、…」
これ、よくある展開じゃね??
ギャルの意外な趣味を知ってしまって、それがきっかけで仲良くなって最終的には付き合うやつだ!!
だとするとこの後は…
ギャルの方から何でもするから秘密にして欲しいと頼まれるはず…
「てかさ、瀬戸くんもこの人のラノベ好きなの?!文章力マジパないよね、なによりエッチなシーンの書き方がヤバい!前作の主人公の家に行ったときのやつやばかったーーー!!」
使い方があっているのかわからないが語っている内容と見た目のギャップがパない。
なんでこんな可愛いギャルがラノベ語っているんだ??
「ねえ瀬戸くんこのあと暇?どっかで一緒に語ろうよ!」
予想の遥か斜め上
フッ、ラノベ歴10年の僕が立てたテンプレを壊すなんてなかなかやるじゃないか
僕について来れるかな?
「あ、は、はい、よ、よろしくお願いします、」
オタクに優しいのはギャルだけで十分です 池田亜出来 @shottijp
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