共存関係

醍醐兎乙

共存関係

 この村は、村近くの森にある泉と共に歩んでいた。

 

 森の泉は不思議な力を持っており、泉の水を飲むと、怪我や病気が治り、体に活力がみなぎる。

 しかし、泉の水を森の外に出そうとすると、たちまち蒸発してしまい、持ち出すことが出来ない。

 そのため、泉の水を求めるものは本人が直接出向かわなければならなかった。


 昔は泉の水を独占しようとする権力者が、悪意をもって村を訪れることが多かったが、村に被害が出ることはなかった。

 なぜなら村に悪意を持ったものは、村にも、森にも入れず、泉の水を飲んでも効果を得ることが出来なかったからだ。

 村が不思議な力によって守られていると知られるのに時間はかからず、今ではこの村は、泉の水を求めるものたちで、賑わい、栄えている。


 泉の水を求めるのは人だけではない。

 争いを好まない野生動物が、泉の側に巣を作り。

 毒を持たない草花が、泉の周囲に彩りを添えていた。

 

 日々、村人たちは村の平穏を保ってくれる泉に対し、欠かすことのできない感謝の気持ちを持って過ごしている。



 十数年に一度、泉の力に誘われるように異形の群れが訪れ、泉を枯らしかねないほど飲み干しに来る。

 

 異形のモノは一体一体が人より大きく、群れをなして空を飛び。

 泉に近づくに連れ、受け入れがたい不快な鳴き声えを撒き散らし、空気を汚染していく。

 飢えているのか、口らしき場所から体液を撒き散らし、狂ったように泉に吸い寄せられてくる。

 空を黒く染める異形の群れに村人たちは、尋常ならざる敵意を向けた。


 泉を守るため、日頃から泉の水を常飲している村人たちは、体にみなぎる人外の力を躊躇うことなく開放していく。


 愛想の良い宿屋の店主は、雄叫びを上げながら空を自在に飛び、戸惑う異形のモノを殴り倒し。

 普段は子どもを叱るのも躊躇う教師は、気合の掛け声と共に投石し、応戦してくる異形のモノを撃ち落す。

 泉の側で薬草を育てる薬師は、怒りのあまり自身からあふれ出た炎で、狼狽える異形のモノを焼き尽くし。

 村最高齢の長老は、狂うほどの憎しみを募らせ、逃げ出す異形のモノを呪い殺す。

 

 村人たちが傷つき倒れても、他の村人に泉に放り込まれ、更に活力を増し、再び異形のモノたちへと襲いかかる。


 普段は温厚な村人たち。

 悲痛な異形のモノたちの叫び声が消えるまで、村人たちが止まることはない。

 異形のモノたちにどのような理由があろうと、村人たちが泉の敵に容赦をすることはない。

 それは泉に守られ、泉に育てられた住人の心に根付いている、共通の認識。

 村人たちは異形のモノたちを必ず殲滅し、泉に静寂を取り戻す。


 そして、戦いを終えた村人たちは人外の力を抑え、泉で心と体を癒やし、またそれぞれの大切な生活へと戻っていく。

 こうして異形のモノたちが繁殖し、飢え、泉を求め狂い出すまでの十数年間、泉の平穏は守られている。

 

 

 村人の敵は泉が退け、泉の敵は村人たちが滅ぼす。

 これまでも、そしてこれからも、村と泉は互いの平穏のため共に歩み、共存を続ける。

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共存関係 醍醐兎乙 @daigo7682

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