第13話

 エルファスの魔法が加わったことで、土の改良や作物の成長速度がさらに上がった。

 見渡す限り青々とした若葉が生い茂り、気の早いものはすでに花をつけようとしている。

 村人たちの活気も、今が最高潮といっていい。


「ゼフィルさん、これ……見てください! こんなに太い根っこになってますよ!」


「おお、すげえな! この調子なら、近いうちに大収穫祭ができるかもしれねえ!」


 地力の弱かった土地が嘘みたいに栄養豊富な畑へと生まれ変わっている。

 エルファスも、杖を抱えながらしきりに「面白い」とつぶやき、周囲の住民に魔法の基礎を教えたりしている。


 そんな平和な空気のなか、ふいに村の入り口から見張り役の声が響いた。


「ゼフィル様、馬車が見えます! 何台かの馬車と、騎馬兵らしき集団が……!」


 その報せに、村人たちが一斉にざわつく。

 ついに来たか――領主様のお出ましかもしれない。


「みんな、落ち着け。まずは状況を見てからだ。向こうがどう出るか分からないが、俺たちは村を守る準備がある」


 俺はそう声をかけ、ロブとコークス、エルファスをはじめとする仲間たちとともに、村の入り口付近へ急いだ。

 遠目に見える馬車の隊列は、どう見ても領主の訪問に違いない。

 しかも、その規模からすると、ただの挨拶では終わらなそうな雰囲気がある。


「ゼフィル様、武器はどうされますか?」


「一応、腰に剣を差しておく。コークス、お前も警戒しておけよ」


「はい、でも……無事に済むといいですね」


 心臓がドキドキする。

 何とか友好関係を築ければ理想だが、あの部下の態度を思い出すと、期待は薄い。

 しかしここで怯んでは、みんなの暮らしを守ることはできない。


「エルファス、お前はどうする? 万が一のときは力を貸してくれるか?」


「当然。私の魔法は研究のためにも実戦で試したいところだ。敵対するなら遠慮はしないよ」


 彼の淡々とした口調が、不思議な安心感をもたらす。

 俺たちは意を決して隊列を迎えに出る。

 やがて、立派な衣装を身にまとった男性が馬車から降りてきた。

 彼こそが領主――“モルケント伯”だろう。


「ここが噂の廃村か……ほう、ずいぶん様変わりしたな。確かに、人がたくさんいるようだ」


 モルケント伯は周囲を見渡しながら、鼻をすする。

 その視線は冷ややかで、全く笑みを浮かべていない。

 護衛の騎馬兵たちも、いつでも武器を抜ける体勢で控えている。


「初めまして。俺はゼフィル。この村を再生し、今みんなで暮らしています。領主様がいらっしゃるとは光栄ですね」


 なるべく礼儀正しく挨拶するが、モルケント伯は鼻を鳴らすだけ。

 どうやら、こちらを良く思っていないのは明らかだ。


「ほう、“農地再生”の張本人か。よほど自信があるのだろうが、私の領地で勝手な振る舞いをしてもらっては困る」


 低く響く声に、村人たちの緊張が一気に高まる。

 俺は嫌な汗をかきながらも、視線をそらさずに領主を迎え撃つ。

 ここからが正念場だ。

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王都を逃げ出した没落貴族、【農地再生】スキルで領地を黄金に変える 昼から山猫 @hirukarayamaneko

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