第12話

 領主の動向に警戒しつつも、日々の生活は続いていく。

 食糧を確保するために畑を拡張し、森での狩りや採集を行い、家の修繕や防衛策なども同時進行。

 そんな忙しさの中、新たにやって来た人物がいた。


 見るからに細身で、長いローブをまとい、杖を携えた男――エルファスと名乗った。

 少し高貴な雰囲気が漂うが、どこか陰のある眼差しが気になった。


「俺はゼフィル。この村の実質的な責任者だ。お前は何者だ?」


「私は……魔法使いだ。といっても、研究熱心すぎて師匠から破門された身さ。居場所を求めてここへ来た」


 彼は静かな口調でそう語る。

 王都から追放されたわけではないが、師との確執で自分の行き場を失ったらしい。

 噂で“農地再生”のスキルを持つ貴方がいると聞き、面白そうだから来てみたのだとか。


「面白そう……って、ずいぶん他人事だな」


「ふふ、魔法研究には実験台が必要だし、地形や気候が厳しいほど興味をそそられるのだよ。許されるなら、私もここに住んで研究を続けたい」


 彼が言うには、植物を成長させる魔法や、大地を癒す呪文に興味があるらしい。

 まさに俺のスキルとの相性が良さそうな話だ。


「興味はあるが、信用できるかどうかはわからん。何か証拠みたいなもんはあるのか?」


「証拠か……ならば、少し魔法を披露しようか」


 エルファスはそう言うと、周囲にいた住民たちの前で杖を掲げた。

 すると、乾いた地面の一角に優しい風が吹き込み、さらさらと土を整えながら水分を呼び寄せていく。


「すげえ、まるで俺のスキルみたいに土が柔らかくなってやがる……」


 住民たちからも驚きの声が上がる。

 規模は小さいが、確かに俺のスキルと似通った結果だ。

 もしかすると、俺の力と合わせれば驚くほどの相乗効果が期待できるかもしれない。


「どうだ? これで少しは信用してもらえたかな」


「まあ、悪くなさそうだ。わかった、好きに研究してくれ。ただし、村のルールには従えよ。勝手な実験で村人を巻き込むのは厳禁だ」


「承知した。私はただ、安全に魔法を研究したいだけだからね」


 エルファスは小さく微笑み、ローブの袖を揺らしながら俺たちに一礼をした。

 一見すると気難しそうだが、悪い人間ではなさそうだ。

 それに、魔法使いが村にいてくれるのは、領主との衝突が起きたときに心強いかもしれない。


「じゃあ、今後はこの村で頼むわ。ところで、畑の手伝いもしてくれよな?」


「もちろん。君の“農地再生”と私の魔法が組み合わされば、きっと面白い成果が得られるだろう」


 お互いに協力し合える仲間が増えたということで、村の空気がさらに明るくなる。

 いずれ領主との対立は避けられないかもしれないが、そのときはこの魔法使いの力も借りられるかもしれない。


「よっしゃ、これでまた一歩、俺たちの黄金郷計画が進んだな!」


 俺は気分を高めながら、改めて畑の中心に立ち、“農地再生”を行使する。

 エルファスの魔法が加われば、この土地はますます豊かになるだろう。

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