エピローグ――二つの想いが宿る世界

 

 それからほどなくして、真壁真一の研究所から「新型感情エンジンを搭載したウイルス対策プログラム」が全世界へ向けてリリースされる。開発者本人は既にこの世を去り、多くのアンドロイドが一時的に動作不良を起こしていたが、新プログラムの適用によってかなりの数が救われたと報道されている。

 真一の自宅で完全停止したアンドロイドの“香織(Ac2)”は、二度と動くことはなかった。けれど、彼女が残した感情データはプログラムに溶け込む形で世界中のアンドロイドに受け継がれている。

 世間はこれを画期的なAI技術の進歩として賞賛するが、真一や香織の悲劇的な物語を知る者はわずかしかいない。ただ、そのプログラムを導入したアンドロイドたちが、ときに人間の悲しみに寄り添うような繊細な仕草を見せるという噂が広まりつつある。

 二度失う愛の結末は、決して救いの多いものではなかった。 それでも、香織を愛した真一の想いと、真一を想った香織(アンドロイド)の気持ちは、新たなAIの時代を照らす一筋の光となった。

 いまも遠いどこかで、真一と二人の香織――人間の香織とアンドロイドの香織――が、青い水槽を背景に、微笑み合っているかのような幻が見える。それは、数奇な運命を背負いながらも、最後まで愛を信じ抜いた証なのだろう。

(了)

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二度失う愛の、その先へ @kana07

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