第5話

何とか了承をもらい、

私の座っていた座席が映る

画角の映像を凝視する。

倍速で人々が動いている。

まだ私は現れない。さあ、どうだ。

午前十一時を過ぎると私が腰を掛けた。

問題の鞄も映っている。

それから十七時に至るまで鞄は

映ったままでいた。私が立ち上がる。

恐らくトイレだ。しかしながら

何も起こらずに映像は進んでいく。

二十時頃、また私がトイレへと向かう。

その時だ、私の近くに座る女性が

立ち上がった。私のいない時間帯に

不自然に私の席に近づいた。よく目を凝らす。 

鞄の置かれた席の背後には窓がある。

ある部分を彼女が動かして、

私の鞄を彼女が外へ出した。

向こう側に誰かがいる。

ヘルメットをかぶっており、

バイクにまたがっている。

 その彼が札束の入った鞄を落とし

彼女が机の下に置いた。

 一体どういうことなのか。

戻ってきた私は平然と椅子に座る。

 後ろから閉店作業中の

店員が声をかけてきた。

「あらま、やられちゃったのね。

よくあるのよ。ドンマイとしか言えないわね。あとで入口の看板の下の方、見てみて。

黒い鞄は持ち込まないで下さいって

書いてあるから。あと、その札束、

持ち帰らないほうがいいと思います。

みんな、あの鞄を持ちだして死んでるから笑」

 

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鞄がない 雛形 絢尊 @kensonhina

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