第4話

 それを勢い任せに持ち上げた。

その重量感には驚いた。

したがって私の鞄ではないことは

確かになった。 

 だが、その見た目とやらは私の鞄

そっくりである。一見すれば私のものだ。

 何も考えることなくチャックを引いていく。その中身に驚いた。札束だ。 

 こんなものまさに映画の中でしか

見たことがない、溢れんばかりの

札束が目の前にある。

 おいおいおい、どういうことだ。

 すり替えられた?逆にすり替えられたのか?勘弁してくれよ。

 あ、というか。重要書類、

入っていたかもしれない。

ようやくかけた記事が、

物理的に札束になった。

 私は急に選択を迫られるように、

立ち上がったのち、また座った。

 でも、この金は、この金というものは

何なのか、何のためにあるのか、

存在しているのか。閉店時間が訪れる。

その選択の前に店員に監視カメラの

映像を見せてくれとせがんだ。  

 そう、俺は鞄を盗まれている。

誰かに鞄を盗まれている。

 アメリカンブレンドは

これでもかというほど冷めていた。

 

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