先輩

あざみ忍

第1話

 私には好きな人がいる。

 私よりも1つ年上のかみ先輩。

 どこに惹かれたと訊かれれば、正直分からない。一目惚れ、それは違う。なら優しくしてもらったとか? いやいや先輩は私に厳しいから。じゃあ逆に冷たくされるのが快感とか? 私、そんな性癖ありません。何れにせよ、私は恋に落ちた理由も分からず、今日も先輩に声をかける。


「先輩、お疲れ様です」

「今日も来たのか、相変わらず暇な奴だなぁ」

「私も部員ですから」


 私たちは同じ文芸部員である。部活の頻度は週に1度。放課後になると部室に集まり、部活動が始まる。ちなみに他の部員はいない。私と先輩、2人だけである。


「最近はどうだ?」

「可もなく不可もなくって奴ですね」


 定期報告。これもいつものやり取りの1つである。


「ふ~ん。てっきり、何かあったと思ったよ」

「どうしてですか?」

「だってオメェさん、髪切ったじゃねぇか」

「…………」


 私の後ろ髪は腰あたりまで。それを昨日、で10センチ切ったのだが、先輩は気付いてくれた。友人だって一人も気付かなかったのに。いつも私のところを邪険に扱うくせに。そういうところ、本当にズルイ。


「なぁ。反応がないと、オレも困るんだが」

「すみません、ちょっと驚いていました。先輩、意外と私のところ見てくれているんですね」

「うっせぇ」


 頬を赤く染めながらぶっきらぼうに答えると、先輩は再び本を読み始めてしまった。

 そんな姿でもときめき、愛おしく思えてしまう。うん、これはかなりの重傷だ。でも嫌な気分じゃなかった。むしろこの感情は大切にしたい。


「私、そういう先輩嫌いじゃないですよ」

「へいへい、そりゃどうも」


 こうして今日も先輩との楽しい時間は続くのだった――。

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先輩 あざみ忍 @azami_shinobu

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