これを書くことで少しくらい僕の世界が明るくなればいいのに

雪猫 美玖

第1話 僕

僕はペンを握った。僕にはこれしかなかった。ふと見た小さな窓からは、地面に打ち付けるように雨が降っているのが見えた。


僕の毎日は退屈だ。退屈にしてしまったのは僕だ。幸せは簡単に僕の指の隙間から消えてしまう。あの時は絶対消えるはずがないと思っていたのに気づいた頃にはこの手の中には何も残っていなかった。周りを見ても何も残っていない。ただ、残されたのは幸せだったあの頃に縋っている醜い僕の手だけだった。


僕とあの子の出会いは偶然だった。今まで喋ったことすらなかったのにあの日は何故か喋りかけていた。そして、そのまま連絡先を交換した。今思えば神のいたずらってやつだったのかもしれない。そのまま日が過ぎ僕とあの子は毎日意味などないただの雑談をしていた。人には相性ってもんがあると思うが相性はとても良かったと思う。僕とあの子は仲が良かった。周りから見ても仲が良かった。そして、月日が進むにつれ相性の良さやあの子の良さに惹かれ付き合った。僕とあの子はお互いのことを愛し合っていた。ずっとこれからも愛していくと思っていた。でも恋とは恐ろしいものだ。人を変えさせてしまう。あの頃の僕はあの子を見ているだけで幸せだったのにそれでは満足できなくなってしまった。僕はあの子を深く深く好きになってしまっていた。あの子の1番になりたかった。そんな僕は、あの子の自由を奪おうとしてしまった。僕はこんなに好きなのになんであの子はと思ってしまった。僕はもう自分の中のあの子のことしか考えられなくなっていた。好きなあの子を苦しめたのはあの子のことが好きな僕だった。

そうして僕はあの子に振られた。そりゃそうだよな。

僕が悪い。僕が悪い。僕が悪い。

わかっている。わかってはいる。

この手にはまだ何か残っている。そう信じたい。


そんな僕が僕は嫌いだ。

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