俺はまだ終わっていない

「おめでとう、栄華!」

『ありがと〜っ!!』


 三次選考発表でも『えいみん』の名は残っていた。もう俺には想像もつかない領域だ。後もう一度選考通過すれば書籍化だぞ?

 最初の読者は俺だと自慢できるな。心の中で。

 ちなみに今回は選考発表の時間でなく、いつも通りの時間に通話を行っている。

 ……二次選考発表のときに超速で口走ったのがいけなかっただろうか。


「……まあ、それはそれとして、スランプだ〜!」

『アタシも〜!!』

「なーにが『アタシも〜(裏声)』だ! 滅茶苦茶面白い二作目を書いてるくせに!」


 作業通話は今も続いている……のだが、進捗が芳しくない。

 栄華も作業が進まないと言っているが、俺の八倍は進んでやがる。

 そしてその二作目が超面白いのだ。

 勿論好みの問題もあるだろうが、ぶっちゃけると応募作の十倍は面白い。

 普段なら『俺の作品の方が……!』って思えるのだが、これがもう面白すぎて自信を失っている。

 そもそも、彼女の作品が三次選考を通ったという事実が……。

 ……いや、これだと栄華のせいみたいになるな。書けないのは俺が悪い。


『えー、いやでもさー、ここから終盤に繋げられる気がしなくて〜、全部書き直そうかなって思ってんだよな〜』

「勿体なさすぎるだろ」


 あんなにも独創的で面白い作品に修正が必要だろうか。ただ、俺の目が狂っている可能性も十二分にあるため彼女の決断を止めることはできない。


『やー、どうしようかなー……?』

「ま、好きなようにやればいいさ。まだ仕事でやってるわけでもないしな」


 そう、『まだ』。

 コイツは遅かれ早かれ作家になるのだろう。

 ……俺はどうだろう。

 初公募で一次落ちは当たり前なのかもしれないが、隣を見れば四次選考まで進んでいるヤツがいて。

 なんというか、自信を失っているし、作品を作り上げたという区切りがついたことで燃え尽き症候群みたいになっている。


『そうだなー……もしプロになったら色々考えなきゃいけないだろうし』

「ま、お前なら何とかなりそうだけどな……」


 まだ気が早いけれど、『受賞式、お前一人で大丈夫か〜?』なんて言ってみようか。

 いや、コイツのことだからそれも問題なくこなすことだろう。

 ……よく考えれば受賞式に一人で出て大丈夫じゃないの、俺の方じゃないか?


「……俺、お前と一緒の受賞式に出たいな」

『受賞式って……まだ気が早いだろ。けど、オマエが一緒にいると気が楽だな! ぜひ来てくれ〜!』

「……よし、わかった。道のりは険しいかもしれないけど、やれるだけやってみるさ!」

『アタシも次回作頑張らないと!』


 これから先、どうなるかはわからない。

 また二人で一次選考から始めるのかもしれないし、俺が栄華の後を追う形になるのかもしれない。

 また精神面が不安定になって死を望むのかもしれない。

 ……でも、俺はまだ終わっていないから。

 いつか完全に終わるまでは、進み続けよう。



「──あっ、そういえばさ、今回の初公募の話を短編小説の元ネタにしてもいい?」

『面白そうじゃんっ! オッケー!』

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それいけ初公募マン! 未録屋 辰砂 @June63

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