7話

「戌井――好きだ」


 花火の音で聞こえない。

なんて恋愛ゲームの主人公のようにあたしは、成れない。

 全身の血が、顔に集まっているように熱い。


「戌井」

「あ、えっと……その」


 どう返事をしていいのか、そもそも私の気のせいに今からならないだろうか。


「返事……まだいい」

「へ、返事って」


 そう震える声で、聞きかえす。

 もう言い逃れができないらしい。

 

「さっきの、告白のつもり」

「コッ!?」


 皐月君のその言葉に情けない声が出た。


「そんなに慌てるな、転ぶぞ」


 なんだか楽しそうに笑う皐月君に、心臓がはねる。


「家まで送る。余計に見てられないし」

「あははは……」


 家までの帰路は、お互い無言のままだった。


「戌井」

「は、ハイ……」

「春って呼んでいいか」

「へ!?」


 今世と前世の名前が一緒のせいで余計に緊張する。


「……ダメか?」

「ダメじゃないです」

「……春」

「は、ハイ。皐月サン」

「――ふ、それじゃ。おやすみ春」


 そう最後におやすみボイスまでもらってあたしは、キャパオーバーした。


ーーーー


「おはよ! 春ちゃん」


 騒がしい駅構内で、スポーティな美奈子ちゃんが手を振りながら駆け寄ってくる。


「待たせちゃった?」

「いや、さっき来たところだよ」


 あたしが二人を待たせるわけにはいかない、と早く来ているだけだ。


「悪い、二人とも遅れた」


 そう言って皐月君が、美奈子ちゃんとは別方向からやって来る。


「待ち合わせの五分前だから遅れてないよ」


 休日服の皐月君が、そう言って待ち合わせ場所に現れる。


 あれから皐月君は、夏祭りで宣言した通り。

あたしに気を遣ってか、態度こそ軟化しているが話題に触れないようにしてくれた。

 おかげで、初対面の時のようなドギマギとしたあたしの態度も落ちつきを見せた。

「ふふ、みんな集まったし……少し早いけど早く行こっか!」


 ファンシーな園内で流れる曲に、頭上から聞こえる悲鳴が混ざる。


「今日は、目一杯楽しもうね!」


 そう朝日に負けない眩しい笑顔を浮かべる。

 今日は、美奈子ちゃんに誘われ、遊園地に遊びに行くことになったのだ。

 偶然にも、四枚ではなく三枚割引券をもらったらしく、あたしと皐月君に白羽の矢がたったのだ。


 ジェットコースターに、コーヒーカップ、シューティングアトラクションなど、前世のあたしでも経験のない遊びに熱中した後。


「じゃあごめん、あたしお手洗い行ってくる」


 お土産売り場にも行き、一区切りになったところで、二人に声をかける。


「あの、ベンチ空いている」

「うん、お土産袋見ているよ」


 皐月君が見つけた近くのベンチで、荷物を置かせて貰うと、二人に感謝してその場を離れた。


「ありがとう、お願い。じゃあ、行ってくるね」


 少々混んでいたが、無事にお手洗いを済ませ、二人の待つベンチに向かう。

 姿が見えたあたりで、二人が楽しく話している様子に、足が止まる。


「見てあのベンチで座っているあの人、かっこいい〜〜。モデルの人かな」

「隣の女の子もかわいいよねぇ」


 そこに追い打ちをかけるような何気ない言葉に、目を見開く。

 どうして忘れていたんだろう。


(あれが、正しい姿だったよね?)


 そう思った途端、あたしが戌井春という異物の存在に耐えられない。

 今すぐにどこかに隠れてしまいたいのに、足が動かなくて立ち尽くしていると、皐月君と目が合った。


 立ち止まるあたしを心配する顔は、夏祭りで見た時のようにゲームと違って見える。

 皐月君と美奈子ちゃんの恋愛が見たいと思っていたのに、それを嬉しいと思ってしまう自分に気づいてしまう。


(あたしは、皐月君が好きなのか)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ブロッサムメモリーズ〜転生したら、最推しとヒロインから距離を詰められている件〜 芦屋秀次 @syuugi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ