第7話 完全勝利! ざまぁ!
それから数日でポロムドーサ冒険者ギルドは完全移転し、新しくノースランド冒険者ギルドとして運営を再開した。
冒険者たちの評判は上々だった。
美しく綺麗な施設。
清潔な宿泊施設。
安価で量が多く、美味しい食事。
広々とした訓練施設。
前のオンボロ施設と比べれば、それこそ天と地ほどの差で、文句の出ようなど出るはずもなかった。
そして冒険者ギルドの隣町への移転に伴い、大移動が始まった。
まずは冒険者ギルドを一番の商売相手とする武器防具ギルドがノースランドに拠点を移した。
道具ギルドや薬草ギルドなどもそれに続く。
すると雪崩を打ったように次々とギルドがノースランドへと移転を始めた。
金融ギルド、大小無数の商工ギルド、馬車ギルド。
皆が皆、次々とノースランドへと移転していった。
ギルドの移転は、ギルド構成員の家族の移転も意味する。
ものすごい人口の移動がごく短期間に発生し、その結果ポロムドーサの商業区からは賑わいが消え去り。
逆にノースランドは施設や家屋の建築ラッシュもあって、空前の好景気に沸くこととなった。
◇
それから5年が経過した。
今やノースランドは一地方都市から地域の顔となる大都市へと変貌を遂げつつあった。
そしてフィブレはというと、エスコルヌ女子爵の婿養子になり、冒険者ギルドのギルマスをしながら、ノースランドの領地経営にも精を出していた。
近々、第一子が生まれる予定である。
「冒険者ギルドが移転して、今日でちょうど5年。想像以上の経済効果でしたわね。税収は当時の10倍を超えて、なおも上昇中ですわ」
フィブレの執務室に来ていたエスコルヌ女子爵が、当時を懐かしむように笑った。
「損して得取れとは言うけど、正直ここまでとは思わなかった」
フィブレも当時のことに思いをはせる。
「来年には王都と直通の乗合馬車も運行を始めますわ。さらに忙しくなりますわよ」
「俺もそろそろ手一杯だから、せめてギルマスは後進に譲らないとな。子供も生まれるし、領地経営がどんどん忙しくなってきて、そろそろ身が持たないよ」
「嬉しい悲鳴ですわね」
などと幸せを噛みしめる2人だった。
◇
そんなある日、とある人物がフィブレに会いにやってきた。
サー・ポーロ士爵である。
「今日は提案を持ってきてな。今なら半額、いや1/4の使用料で以前の施設を使わせてやらんこともないのだ。改修や食堂の運営権も認めよう。どうかのう?」
この期に及んでなおウエメセで、魅力のない提案をしてくるとか、何を言ってんだこいつは? とフィブレは心の中で苦笑した。
「我が冒険者ギルドは、自前の施設を持っています。離れた街に大きな施設を借りる必要はありません」
「そ、そこをなんとか。ほれ、使用料を下げて欲しいとずっと言っておっただろう」
「そもそもの話、もうあそこを使用する必要はないんです。そこはご理解ください」
大小さまざまなギルドがごっそり移転したせいで、ポロムドーサが大変な状況になっていることを当然、フィブレは知っていた。
街からは人気が失せ、空き家に流れ者が住み着いて治安が悪化し、それがさらなる人口流出を招いていた。
サー・ポーロ士爵も別荘を売り払い、使用人にも次々と暇を出していると聞いている。
「どうしても無理かね? ワシらは長い付き合いではないか」
「ええ。長い間、搾取され続けてきました。仰る通りです」
「ぐっ……」
フィブレに皮肉たっぷりに返されてしまったサー・ポーロ士爵は、言葉をなくして顔を俯かせた。
「どうぞお引き取り下さい。俺も忙しいので」
その言葉に、サー・ポーロ士爵はすごすごと執務室を後にするしかなかったのだった。
(ざまぁ! 完)
ギルド移転物語~ギルマスの俺、交渉でウエメセ貴族にさんざん足元を見られてきたので、ギルドを隣町に移転することにした。うちの経済効果のでかさを舐めんなよ? マナシロカナタ🐈ねこたま25年春発売予定 @kanatan37
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