通り魔の気持ち

年末、忘年会や休み期間で社会が緩む時期、俺は当てもなく街中を歩いていた。この時期はタクシーを多く見かけるがそれは俺に関係ないことだ。俺は無職で暇を潰すだけの人間だ、今日も今日とて何かないかと外を探索する。


(どいつもこいつも浮かれやがって)


俺はこの時期が嫌いだ、普通の奴らは平日はピリピリしてる奴が多いのに、こういう時は羽目を外そうとする。道を歩いてる行くうちに、イルミネーションが飾ってあるお店を見かける、そういや前までクリスマスだったなと思い至る。クリスマスも嫌いだが。


街道を歩いていくと、手を組んだカップルらしき人達が前方から歩いくる、こいつらも年末年始は一緒に過ごして年を越そうとしているのか、そう思うとだんだんと腹が立ってくる、俺は早足で二人を横切ろうとすると何かが落ちる音がして、足元を見るとあるものが落ちている、俺はそれを拾い上げ何かと確かめると通り過ぎたカップルの方を見る。


「おい!」


呼びかけるように声を出し、振り返るカップル、俺は緊張した顔でカップルの方へ歩いていく。


男が女を庇うように体を前に出したが、それでも俺はカップルに近づいていく、女は男の腕に強くすり寄って離れようとしない。やがてお互いの距離が1メートルまで狭まった時。俺はポケットから黒光りするのを取り出して男の方に突き出す。


「スマホ、落としましたよ」


「え? あっ、どうも」


男は何か呆気にとられた反応を返したが、女の方は男の側を離れずくっついている。俺は二人を通り過ぎ、またふらふらと街中を歩いてゆくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

掌編集 @tokumei774

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ