寒い中でくっついていたい女子と、コタツで丸くなっていたい女子の攻防戦
椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞
コタツと結婚した女
「なあ、ミナ~。初詣行こうや~」
久々にこっちに帰ってきたが、結月は相変わらずわたしを外に連れ出そうとする。
「やだよ、結月。外見ろよ。雪降ってんじゃん!」
外を指差す。
窓の向こうは、一面の銀世界が広がっていた。
この地方でこの寒さは珍しく、路面が凍っている。いま外に出るのは、ちょっと危ない。
「雪が止んでからで、ええし~」
「寒いよヤダ。車の窓も曇るし、タイヤ滑るからダメ」
あそこの神社は、車を出さなければ遠すぎる。
わたしは、コタツと結婚することに決めたのだ。ここからは絶対に出ないっ。
「なんでよ。せっかくこっちに帰ってきたのに。もうちょっと昔みたいに、イチャついてもええくない?」
「くっつくだけなら、コタツの中でもできるし!」
「もっと『寒い』っていいながら、つっくいたらええやん」
結月がコタツに手を入れて、わたしの手を握ってくる。
「冷たい! それと付け爪が痛い!」
「え~っ? 付け爪なんてしてへんよ~」
「だったらなにが?」
わたしは、コタツで丸くなっている結月の飼いネコに引っかかれたっぽい。
「ほら、カマンベールも嫉妬してるじゃん」
「え~っ。カマちゃんは、ミナを追い出そうとしてるんやんな~。コタツと結婚したんは、カマちゃんやさかい」
白い太った猫なので、コイツは結月に「カマンベール」と名付けられている。
「なあ。あそこの天ぷらチェーンで年越しソバ予約できるから、買うて取りに行こうや~」
「ダメダメ。高すぎる。ソバなら、スーパーで買ってもらってるじゃん」
「天ぷら屋のほうが、大きいエビが乗ってて、おいしそうやん」
「エビも、ちゃんと大きなフライを買ってきたから」
「それ、年明けのレトルトカレー用やんか~」
わたしの提案に、結月がブーたれた。
「いいじゃねえか。エビは年明けに食べたらいいんだよ」
「じゃあ、隣のラーメン屋で妥協するわ」
「あそこ、注文が面倒だから行きたくないっ」
ああいう系列店って、注文が独特すぎる。一見さんは、入りづらい。
「外で寒いなあっていいながら、手をつなぎたいねんて~」
「手なら、いつでも繋いでやるから。ほらっ」
コタツの中で、わたしは結月の手を握った。
また、カマンベールに邪魔をされる。
なにを我が物顔で、コタツも結月も独占しようとしているのか。お前は、コタツと結婚してろ。
だが、カマンベールはそれこそ焼けたチーズのように、伸びを始めてしまった。「ここは自分の領域だぞ」とばかりに。
「しゃーない。コンビニくらいなら、行くか」
観念して、わたしはコタツから出た。
「やった。って、その格好で行くん?」
今のわたしは、ジャージ姿である。
「ミナ。あんた、ここに帰ってきてから肥えたやろ? それで、外に出たくなかったんか?」
「うるせえな。いいから、コンビニで肉まん食おうぜ」
「えっと、初詣は?」
「行かんっ。近くのコンビニ行くだけ」
安物のジャケットを羽織って、わたしは結月の手を握った。
寒い中でくっついていたい女子と、コタツで丸くなっていたい女子の攻防戦 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
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