女勇者パーティを追放された無能魔術師は、転生した最凶魔王だった。〜記憶を取り戻したので、覚醒チートで魔王軍を殲滅します〜
灰色の鼠
第1話 勇者パーティからの追放と、お迎え
百年前、女勇者ガーベラは伝説の聖剣で”魔王テスタロッサ”を討ち取った。
しかし、人類は本当の平和を取り戻せていなかった。
たとえ魔王を討とうと、その残党、下僕や配下”魔王軍”は変わらず機能する。
王を失って尚も、人類を滅ぼそうと魔王軍は各国、息を潜めて暗躍しているのだ。
「悪いがシオン、荷物をまとめておけ」
「ああ? 何でだよ?」
「勇者パーティから追放……というより解雇だ」
リグレル王国、辺境の町。
世界を支配しようとする魔王軍との戦いで疲れ切っていた俺達は、小さな村で宿をとって休んでいた。
夜になると、俺シオンはパーティリーダーである女勇者ガーベラに呼び出され、クビを言い渡された。
「はは、急に何を言い出すかと思ったら、冗談にしちゃ面白くないぞ? なぁ、みんな?」
勇者ガーベラはエルフで寿命が長い、百年以上は生きているらしい。
俺が
今年17歳になって分かったことなのだが、ガーベラって年齢の割には小さいよな。
ロリ体型のエルフだ。
「真面目に聞け。お前を解雇する理由が無いとでも? 勘違いも甚だしいな……」
真剣に取り合わない俺にガーベラは一瞬だけ視線を向け、ため息を吐く。
ちょっとだけ圧を飛ばされたので、黙って耳を傾けることにした。
冷や汗をかいてしまう。
「まずは、そうだな。戦力的に論外、そこらの魔物を倒すほどの能力を持っていない。かといって後方支援系の立ち回りや魔術も持っていない。頭も悪ければ、口も悪いしマイペース。私の手にあるこの魔術道具を見てみろ」
ガーベラは、透明な球体を手に持ってみせてきた。
球体に魔力を込めると、カチッと音を立てて光る。
洞窟や森とかの暗い場所で探索する時に使う魔術道具なのだが、それがどうかしたのだろうか?
「シオン、お前はこの”魔術道具”よりも役に立たない」
(カチン)
たかが光る魔術道具よりも下に見られていることを知り、額に青筋を浮かべる。
反論できない事実だけどムカつく。
「お前にできることと言えば、他者に自身の魔力を分け与えること、暗闇の中を活動できる目の良さだけか……ま、私たちはこの魔術道具で事足りるのだがな」
やれやれと首を振って、見下してくるガーベラ。
いちいち手に持っている魔術道具と比べられると、頭にくるんだが。
堪えきれずガーベラに詰め寄って、肩を掴んで引き寄せた。
周りの仲間達はそれでも何も言わないし、何もしなかった。
「一体何のつもりだよ? 確かに、俺は足手まといで大した能力も無ぇ……けど、これでも俺は……」
―――お前の役に立ちたい、この気持ちは本物だ!
そう言おうとしたが、言葉にできなかった。
口をパクパクとさせて、何も言えなかった。
「見苦しいぞシオン。足手まといであることを自覚しているのなら尚更、我々の迷惑になる前に解雇を受け入れて、さっさと荷物を纏めろ。我々は忙しい……」
ガーベラは肩に置かれた俺の手をはらって、背中を向けた。
この勇者、ここまで冷たい奴だったとは。
解雇をするにしても、少しぐらい前から言うもんだろ。
当日に言い渡さなくたって、いいじゃんか。
憤りが胸の底から込み上がってきたが、それよりも悲しみが勝った。
それ以上何かを言い返すことができず、俺は逃げるようにして部屋から出た。
俺はシオン・マグレディン、今年で17歳になる魔術師だ。
パーティの仲間たち曰く、赤ん坊だった頃の俺は親を両方亡くしているらしい。
そんな俺を、勇者ガーベラは引き取って育ててくれた。
さっきも言ったと思うが、彼女は俺の親のような存在だ。
この歳になるまで読み書き、生きるための知識、剣術や魔術を教えてくれた。
13歳になると勇者パーティに加入して、ガーベラと魔王軍残党の討伐任務を共にするようになった。
勇者パーティは、やはり規格外だ。
俺にとっての初級魔術を上級魔術にして発動するし、発動する際に必須の詠唱を端折るし、身体能力も化け物級。
ガーベラの本気パンチは海を割るほどの威力である。
他のパーティメンバーもそうだ。
弓兵のアレク。
金髪の優男で、弓の腕は俺の知る限りはダントツでナンバーワン。
聖者のマナ。
茶髪で胸がデカい、腕を切断しようと高等の呪いや状態異常にかかっても全部治してくれる。
戦士のギルバート。
筋肉隆々の豪快な男、ガーベラよりじゃないが世界最強の魔獣ドラゴンの首を素手で折るほどの怪力の持ち主。
全員が、俺とは比べ物にならないほど強くて、勇者パーティに相応しい。
なのに俺は、何も持っていなかった。
魔術師なのに、そこらの魔物にも苦戦するほど弱い。
どんなに頑張っても、仲間たちに追いつくほどの実力を手にすることができなかった。
なのにガーベラは今まで俺に戦力外通告を言い渡したりしなかった。
役に立たないクズ野郎なのに、追い出そうとはしなかった、他のパーティメンバー達もそうだった。
それが嫌で態度を悪くさせて、反抗的な態度をとって、わざと勇者パーティのみんなから突き放されるようなことをして。
そうしてきたからなのか、ガーベラから遂にパーティを解雇を言い渡された。
唐突でもなんでもない当然の判断、それを望んでいたはずなのに、俺はショックを受けて……
俺って、つくづく意味の分からない男だな。
親、帰る場所、力、何一つない無価値な人間だ。
———無能魔術のシオンじゃねぇか、何で役立たずのアイツが勇者パーティにいるんだよ?
———ガキの頃から勇者に育てられたらしいし、贔屓してるんだろ。いいなぁ、あんな綺麗な勇者と一緒に旅できて。
———無能のくせに生意気だよな。
「やっ、暗い顔をしてどうしたの? 失恋でもしたかい?」
荷物をまとめ終えた俺は、部屋から出ると。
弓兵のアレクが部屋の外で待っていた。
「アレクさんも同じ部屋にいて聞いていただろ。なんだよ、追放されちまった男を笑いにでも来たのかよ?」
目を合わせないようにアレクの横を通り過ぎようとすると、肩を掴まれる。
「何処に行こうとしているのかな」
「何処だっていいだろ。もう仲間でも何でもないから、アンタの知ったことじゃないだろ」
いいから俺をほっといてくれよ。
アレク含めて、俺はもうパーティメンバーみんなの迷惑になりたくないんだよ。
頼むからこのまま行かせてくれ……
「ああ、なるほど。そうだよね、ガーベラは口下手だからね。シオンには伝わらなかったか」
アレクが困ったように笑い、懐から封筒のような物を取り出した。
「確かに君はクビだけど『追放だ! 出て行け!』って意味じゃないから。ネガティブに受け取り過ぎだよシオン」
いや、あれは完全に役に立たないから出ていけって意味だろ。
ガーベラは……そういえば口下手だったな彼女は。
長い間、一緒に居たから分かるのだが、ガーベラが本来伝えたいことが相手に伝わらないことが多々あった。
完璧な勇者でも、欠点があるのだ。
「君の身柄は、これから神聖国の教皇様に預かってもらう手筈になっている。次の日に、教団たちが君を迎えにくるから、その間は大人しく部屋で待機してくれたら助かるよ」
「……は?」
思わず、変な声を出してしまう。
神聖国といえば世界最大の宗教が発祥の地になっている、身分の高い連中のみが暮らすことを許された国だ。
しかも、一番えらい教皇に預かってもらうって……ますます意味が分からない。
「ちょっと、待て。ガーベラが薄情な奴じゃねぇのは分かったけど、いくらなんでもその後の話しが飛躍しすぎだって! 俺が神聖国? 教皇に預かられる? 何で!?」
アレクの話を信じることができなかった。
どういう経緯で、そういう事になったのか。
実は、解雇はドッキリでした〜とネタバラシされた方がまだ現実味がある。
「……それは、言えない」
アレクは優しい顔から、険しい顔で言った。
これも冗談じゃないか、彼の迫力に後ずさりしてしまう。
「何でだよ……」
「大丈夫、理由は神聖国に到着すれば説明される。でも一応、これは僕からのアドバイスだけど。これは君の人生だ、君がやりたいようにやれ。だ」
「……意味分からねぇよ」
アレクに両肩を掴まれて、アドバイスのようなものを貰うが。
やはり理解ができなかった。
神聖国に行かなきゃならなくなった理由。
もしかして、今回の勇者パーティの解雇となんら関係があるのか?
本当に、俺のことを切り捨てるのなら、アレクがここまで優しくする理由が見当たらない。
「けど、分かったよ……言う通りにする」
素直に頷き、部屋に戻ろうとする。
そんな俺の背中をアレクは手をあてた。
そして、強く押した。
突き飛ばされ、床に倒れてしまう。
「痛てっ! なにすんだよっ…………っ!?」
振り返ると、左半身を失ったアレクがそこに立っていた。
大量の血を吹き出し、その返り血が頬に付いてしまう。
「あ……えっ……は? ……は?」
アレクはその場に倒れ、絶命した。
あまりにも突然のことで脳の処理が追いつかず、悲しみやショックが湧いてくるより先に、疑問と混乱が渦巻く。
「あ、あ、あ、アレク……アレク!!!」
仲間の名前を叫びながら、すぐに傍らに近づこうとしたが、その間を割って入ってくるものがいた。
見上げると、そこには女性が立っていた。
“人族”ではなかった、額にはの角が生えている。
目は眼球は黒く、瞳孔が赤く、恐ろしい姿をしていた。
「ま、魔族……!」
魔王軍の残党とは何度も戦ってきたからこそ、彼女の特徴には見覚えがあった。
魔族だ、人類を滅ぼさんと暗躍している人族の脅威である。
しかし、ただの魔族ではない。
弓兵アレクの”感知魔術”は半径五百メートルの生物を判別し、情報を得ることができる。
この魔族の女は感知魔術を掻い潜って、気配を消してアレクを殺したのだ。
只者ではないのは明らかだった。
魔族は、こちらを見下ろしながら、ゆっくりと近づいてくる。
怖くなって逃げようとしたが足がガクガクと震えて、思い通りに動かない。
(殺されるっ……殺されるっ!)
半泣きで、両手で顔を守る。
どうせ殺されるのに、意味のない行為だと分かっているが、せずにはいられなかった。
しかし、数秒立っても殺されない。
それどころか、片方の手に魔族は、自身の手を添えていた。
まるで主君を拝謁する家臣のように、敬愛の眼差しをこちらに向けていた。
「お迎えに参りました――――魔王様」
女勇者パーティを追放された無能魔術師は、転生した最凶魔王だった。〜記憶を取り戻したので、覚醒チートで魔王軍を殲滅します〜 灰色の鼠 @Abaraki123
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