第3話 気持ちの自覚
「か、夏織?」
「え……芹十……? せりと!? ほ、本物なの……!!?」
俺に気がついた夏織は一気に距離を詰め、幽霊でも見ているかのような反応をし始めている。
「お、おう。どうした、俺の偽物でも現れたのか?」
「だ、だって! 遺書残してどこか行っちゃったからぁ!!」
「あ! そういや置きっ放しにしてた……」
彼女の手元にはくしゃくしゃでシワシワになった俺の遺書が握り締められていた。そして、一瞬止まっていた涙が再びボロボロと流され始める。
そういえばそれ片付けるの忘れてたな。まさか夏織が見つけるとは……。
「う、ううぅ……! せりとごめんなさい!! もうイタズラしないからぁ!! だからお願い、死なないでぇ!!!」
「え、えーっと……!?」
夏織は俺にひしっと抱きつき、引き剥がそうとしても離れないほど力強く抱きしめられていた。
普段なら邪な気持ちなどが湧いてくるが、尋常ではないほど心配してくれていたみたいだし、そんなのは微塵も湧かない。
「と、とりあえず俺は死なないから! それは昔遊びで書いた遺書だから大丈夫だ!!」
「ほんと……? ほんとのほんとに……?」
「本当だ!」
「じゃあなんで二日間いなかったり、連絡してくれなかったの……」
「じいちゃん家に行ってたんだよ。連絡は……せっかく田舎行くならってことで切ってまして……」
「うぅ……ぐすっ、よかったぁ……。ごめんねせりとぉ……!!」
どうやら誤解は解けたらしいが、謝ることはやめなかった。
夏織の普段のイタズラが嫌になって死んだとでも思っていたのだろうか?
「死ぬつもりなんかないから。ごめん夏織、不安にさせて」
「うん……。わたしもごめん」
「………えっと、誤解も解けたことだしそろそろ離れてもらっても……」
「やだ」
抱きしめる力が一段階上がったような気がする。そろそろ離してもらわないと学校に間に合わななってしまうんだが……。
「俺は学校行くから……。お前は病み上がり? かはわからんが、まぁ休んで……」
「ダメ! また芹十がどこか行くのは嫌だ……」
「どこかっていうか高校に行くんだが」
「行く。私も行くから、待ってて」
そう言うと、ようやく俺は解放された。
いやぁ、しおらしくなった夏織は久しぶりに見てなんだか懐かしい気持ちになったなぁ。
過去の夏織に思いを馳せ始めたのだが、そんなのは一気に吹き飛ぶくらいの衝撃が目に飛び込んできた。
「んしょ」
「ちょっ!? なんで俺の目の前で着替えようとしてんだお前!!?」
「ちょ、ちょっと芹十! 外に出ようとしないで!!」
目の前で制服に着替えようしている夏織が目に入り思わず吹き出す。
急いで部屋の外に出ようとしたのだが、再び抱きつかれてダイレクトにソレが伝わってきた。
「部屋から出るだけだっつーの! 破廉恥だぞ!!」
「じゃ、じゃあ後ろ向いてて。部屋から出ないでね?」
「う、うん……? わかった」
ま、まさか遺書(笑)だけで、あの生意気な幼馴染がここまで変わってしまったとは……。
夏織の両親にどうやって説明しよう。あの親父さんなら「責任とれ」とか行ってきそうだな。
無事(?)に着替え終わった夏織は再び俺の腕に抱きついて離れようとしない。彼女の母親に生暖かい目で見られながらなんとか朝食を食べてもらい、登校を始める。が……。
「あのぉ……視線とか気になるだろ? だからそろそろ」
「むぅぅ……!!」
「なんでもねっす」
今日一日は心配させた罰として、反論は許されなさそうだ。
「ねぇ芹十。今までイタズラしてごめんね」
「ん? 俺は別に気にしてないからいいぞ」
「ん……やっぱり芹十やさしい。……今まで恥ずかしくて言えてなかったけどさ、そういうとこ好きだよ」
「ほーん。………はッ!?!? それってどういう……」
「ほら、行こ」
結局、「好き」は友達としてなのか、異性としてなのか……。彼女が答えないまま、学校へと俺たちは向かった。
# # #
―夏織視点―
芹十が帰ってきてくれた。
どうやら遺書は昔遊びで書いたものらしく、私の勘違いということだったらしい。
心底安堵して、思わず涙やら鼻水やらをべったり芹十につけてしまった。恥ずかしい。
芹十がいない間、私も死んでしまおうかと考えるほどに追い込まれていた。おかげでようやく気づかされてしまったのだ。
やっぱり私は、芹十のことが好きだということに。
「芹十」
「ん?」
腕に抱きつき、温もりを感じながら彼にこう言う。
「今日から覚悟しておいてね」
生意気な幼馴染に昔遊びで書いた遺書を見つけられた結果、急にしおらしくなって離れなくなった 海夏世もみじ @Fut1
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