第2話 美少女と遺書と勘違い

 ―夏織視点―



 ――土曜日。


 私は今日も今日とて芹十に構ってもらおうと、彼の家まで足を運んだ。

 芹十のお母さんに顔パスで入れてもらい、早速彼の部屋までやってきたのだが、もうすでにもぬけの殻だった。


「あれ? お出かけでもしてるのかな……。むぅ! 私に一声もかけずに出かけるなんて!」


 ぷくーっと頬を膨らませた後、ボスンと音を立ててベッドにダイブする。

 ふわりと舞う埃と漂ってくる芹十の匂い。それだけでは飽き足らず、掛け布団を被って存分に堪能をした。


「えへへ♡ きゃ〜! 芹十に抱きつかれちゃった〜! …………はぁ」


 寂しさを誤魔化すためにそんなことをしてみたが、すぐにテンションは元通りになってため息が漏れ出る。

 この静寂を切り裂くは私しかいないため、虚しさが募っていた。


 正直言って、芹十は私の大切な幼馴染で、好き……なのかもしれない。自覚したら抑えが効かなくなりそうだし、自分を洗脳しているのだ。

 ただ、ここ数年は気恥ずかしさが勝ってしまい、イタズラなどでしかコミュニケーションが取れていない。


 まぁ芹十はエッチな本からM傾向が強いと見たし、私のイタズラにも心底喜んでいるに違いない!


「はぁあ、芹十いないなら帰ろっかな〜。……ん? 何この紙」


 部屋を出ようとベッドから降りたのだが、机の上に謎の紙が置かれているのが目に入る。

 引き寄せられるようにそれ手に取り、中身を見てしまった。


「え……な、なん、で……これ、芹十の遺書……?」


 新しいイタズラの材料が手に入ったと思い喜んでいたのが一変、一気に血が引いて顔が真っ青になった感覚がする。

 偽物かと思ったが、字が綺麗故に最近書いたものだという結論に至った。


「え? ま、まってよ。なんで……なんで――」


 書かれている遺書には、命を絶つような思考に至る原因らしきものは存在していない。気が動転してうまく頭が回らない。

 だがたった一つ、心当たりがあった。


「も、もしかして…………?」


 私が普段スキンシップがごとく行なっているイタズラ。最近では頻度も増えているし、芹十からしたら生意気で、迷惑か極まりない行いだろう。

 息が荒くなる。目が回る。とにかく引き止めなきゃと思い、私はスマホを取り出して芹十に電話をかけた。


 ――プルルルッ、プルルルッ。


 コール音が異様に長く感じる。お願いと心で思い続けても、芹十が出ることはない。


 本当に? 本当に死んじゃった……? いや、いやだ……。嘘だと言って欲しい……。

 もう芹十は……。


「っ!!」


 耐えられなくなった私は、芹十の家を飛び出した。芹十のお母さんにも顔向けすることができない。


 絶望した状態で自分の家に帰宅すると、ソファに座っている父親から話しかけられた。


「お帰り夏織。……やっぱり、最後に芹十くんには会えなったか」

「え、な、なんでパパ知ってんの……」

「いや、実は昨日連絡が来てな。まぁ随分遠くに行ってしまってな、一緒ににゲームしたかったが叶わなかったよ」

「そう……なんだ……」


 最期に。遠くに。逝ってしまった。その三単語で、終ぞ私の心は絶望一色に染まりあげる。死体蹴りオーバーキルもいいところだ。

 私だけに伝えていないことから、やっぱり私が原因なんだ……。


「顔いやが優れないみたいだが大丈夫か?」

「うん……いや、うん……大、丈夫」


 重い足取りで自分の部屋まで歩き、机に飾ってある芹十とのツーショット写真を手に取る。

 そして、掛け布団にくるまりながら、ボロボロと涙を流し始めた。


「う、うぅ……! せりとぉ……やだよぉ……!! かえってきてよ……!!!」


 壊れた蛇口に水を塞き止めろと言われても止まるはずがなく、私は枕を濡らし続けた。



 # # #



 ――二日後。


 俺は前日の日曜日には田舎のじいちゃん家から帰宅しており、今日は普通に学校がある日だ。

 だが妙なことに、今朝は夏織のイタズラがなかった。


「あ、そうそう。夏織ちゃんがものすごい元気がないって言ってたわよ?」

「夏織が?」


 朝食を食べてあると、母さんからそんなことを伝えられる。

 何も言わずに出かけたから怒っているのだろうか?


「そんじゃ夏織の家寄って高校行ってくる」

「わかったわ〜」


 朝食を食べた後メールを送ってみたのだが、何も返信はない。俺がじいちゃん家に行ってる時に電話を何回かかけてきたらしいが、メールは無し。


 制服に着替えた後、家を出て夏織の家へと向かった。

 よく夏織の父さんに招かれるため、基本的に顔パスで家に上がることはできる。


「お邪魔します。夏織ー? いるかー?」


 階段を上がり、夏織の部屋の前でノックをしたのだが返事がない。


「入るぞー」

「うぅぅ……ひっぐ、だれぇ……?」

「え、か、夏織!? なんでガチ泣きしてんだ!!?」


 ガチャリとドアノブをひねって中に入ったが、そこには目元が真っ赤にしながら泣いている夏織の姿があった。

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