第9話
まだ日ものぼりきらぬ早朝、バシリオは10人の部下に虚ろな瞳で声をかけた。
「では、皆さん、準備はよろしいでしょうか?これから国境近くのダクニア領軍に救援物資を届けに行きます、そして、このパッキラ将軍からの親書を、トバス将軍の元へ届けねばなりません、途中何があるかわからないので、情報共有はしっかりやっていきましょう」
「了解しました」
バシリオの下に付けられた10人の部下は一様に若い。下は15から、上は21だ、自分とあまり変わらない年齢にホッとしつつも、若いが故に揉めるだろうことは安易に想像ができた。
なにせ、バシリオは長年王宮でメイド達を束ねるメイド長と同格の皇子専属侍従であったから、メイド長のハリスさんの愚痴を聞いてきた。
揉めるのはいつも些細なこと、何でもキチッと細かくやりたい人と、大まかにやれれば良いと考える人との仕事のデキの差。
バシリオは、どちらかというと、大まかに、だが細かくやりたいという間派だったので、どちらの言い分も解るという立場だった。
得意分野を別けて、たとえば味を左右するとか、放置すると危険な植物とかの世話は細かい者に、時間短縮が求められる、食器洗いや洗濯などは大まかな者に。
あと、細かいこと拘る人は接客に向かず、大まかな人はコミュニケーションに長けているという印象だった。
全て何もかもバランスの良い人はなかなか居なくて、そういった人は頭も良く争いにそもそも参加しない。
10人の部下は果たしてどうだろうか。国境付近までの道のりは早くても20日はかかる。その間、ピリピリすることは避けたい。
どんよりしつつ、若い少年のような兵士を見つめた。
(あぁ、こんな皇子よりも若い子が戦場に行くんだなぁ、一人で馬の世話をして泣かずに偉いもんだ、私の皇子なら真っ白な白馬に懐かれ過ぎていつもペロペロされてしまって、やめろばか!!ってやり取りが微笑ましくて、ずっと見てたら、助けろばか!!って私を呼ぶのに)
はぁ。だめだ、気を抜くと皇子のことばかり考えてしまう。
これから会えないというのに、もう世話を焼きにあの皇子が眠る部屋に駆け付けたい。朝ですよと、むずかる皇子を起こしたい。寝惚けている皇子の柔らかな髪を櫛でとき、真っ白なシャツのボタンを一つ一つ外して、着替えさせ、靴を履かせて……。
だめだ、考えるな。
頭をふりふりと、振って、無理矢理思考を飛ばす。バシリオは、意識を変えようと、己の馬の長い顔をなでて、その背に乗った。
「では皆さん出発をしましょう」
仕方がないから一途な従者に応えてやろうと思ったのに 風里 @kazezato
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。仕方がないから一途な従者に応えてやろうと思ったのにの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます