第4話 新たな日常の始まり
―― 諦めと夢への淡い思い ――
その夜、一朗は久しぶりに料理をした達成感と、
「なんだかな・・・・普通じゃないけど、悪くはないかな」
一方、咲は押し入れの中に戻り一朗の災害用寝袋で丸くなりながら、久しぶりの満腹感で幸せそうに寝息を立てていた。
一朗は自分でも気づかないうちに、すんなりと咲の存在を受け入れ始めている事に戸惑いながら、二人の
夕暮荘での生活が始まってから、一朗は自分の特技を再発見することになる。
それは料理だ。もともと学生時代にアルバイトでイタリアンレストランの厨房の洗い物係から簡単な盛り付けをさせてもらい、最後は調理に
最近は仕事に追われていて、コンビニで弁当を買ってきて食べたり、ひどい時は栄養ドリンクなどですませる事が多く、ただ生きるための食事は本当に味気ないもので余計に気分が滅入ってくる。
ある日の夜、咲がいつものように畳にゴロリと転がりながら不服そうにつぶやく。
「一朗~、なんかさ、食べるものが毎日地味じゃない?」
いつもなら聞き流していたが、今日は特に会社の雰囲気が最悪な上、彼にミスを全部押し付けて来る同僚たちにも嫌気がさし、何かに当たらなければやりきれない気分だった。
「うるせーよ!!お前、
いきなり大きな声で怒鳴ってしまった。すると咲はしゅんとして押し入れの中へと戻っていった。家の中はシーンと静まり返ったが、そっと一朗は立ち上がり冷蔵庫の中を確認し、少しの野菜と冷凍庫に豚バラ肉が残っていたので、それをレンジで解凍し、鶏がらスープの中にオイスターソース、醤油少々、酒と砂糖も少々混ぜ合わせ片栗粉でとろみをつけ、ストックしていた市販の揚げ麺の上にかけた。
キッチンからあんかけ野菜のいい香りがすると、スーッと押し入れの戸が開く音が聞こえた。その隙間から咲のくりくりした瞳がこちらをじっとみている。
一朗は手のひらを下に向けて手招きをした。
「ほら、これでも食ってろ」
咲の前に置かれたのは、シンプルながらも香ばしい匂いを放つ『あんかけやきそば』だった。
「うまいっ!!」
咲は一口食べると同時に目をまん丸にしながらも箸が止まる事はなかった。
「だろ?」
「いや、冗談抜きで、本当に美味しんだけど。おまんすごい腕もってるんだから、料理人になりなよ」
咲の言葉に一朗は少し戸惑いながらもこうつぶやく。
「どうせ・・・・俺なんて。今さら何かはじめてもなぁ」
「やって見なきゃ・・・何にも変わらないし。『俺なんて』とか言ってたら、自分に負けちゃうよ」
あんかけ焼きそばを頬張りながらの咲の言葉には若干説得力は薄いが、なんとなく一朗の心の片隅にインプットされたのだった。
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