第3話 空腹の貧乏神 ②
―― 幸せそうに食べる神様 ――
咲はスプーンを手に取り、勢いよく一口頬張った。
「うまっ!!」
段ボールの机をドンドン叩き、目を輝かせながら次々と口に運んでいく。
その様子を見て、一朗は少し驚いた。
「そんなに美味いか?余り物で作った、ただのチャーハンだぞ」
「うーん、この卵のふわふわ感と玉ねぎの甘さが口の中で踊るんだよ、もしかして一朗ってプロの料理人?」
口いっぱいに頬張りながら咲が尋ねると、一朗は苦笑いを浮かべ首を振った。
「咲は一週間ごはん食べてなかったんだろ?それに俺は冴えない会社員だよ・・。学生時代にちょっと料理が好きでレストランなどの厨房でアルバイトしながら見様見真似で作っていただけさ」
「へぇ―、でもこの味は本物だね。うち・・・こんな美味しいもの久しぶりに食べた」
咲がスプーンを置き、一息つくと満足そうにお腹をさすりながら手を合わせた。
「ごちそうさまでした。生き返った~~」
「そんなに嬉しそうにされると、作った甲斐があるな」
一朗は照れくさそうにして、紙皿やスプーンなどを片付け始めたが、咲はそんな彼の様子をじっと見つめていた。
「ねえ、一朗?おまんなんか不思議だよね」
「不思議ってなんだよ。咲の方がまったくもって理解不能極まりないし・・・言葉もどこか変だし」
「あぁ、この方言は仕方ない、職業柄いろんな地方に滞在するからね。長く居ると話し方がうつるんだよな。それに、うちみたいな貧乏神に普通の人なら関わりたくないと思うじゃろ?でも・・・・おまんは美味しいご飯まで作ってくれた。そんなの初めてで・・・」
咲は最後まで言い終わる前に、今にも泣きだしそうになっていた。
「ただ放っておけななかっただけだよ。腹を空かしている奴を見ると」
少し照れたように視線をそらしながら一朗は答えた。
―― 此処に置いてください ――
しばらく考え込むように黙っていた咲は、ちらりと一朗の顔を見ながら口を開いた。
「・・・ねぇ、一朗・・・うち、しばらくここにいてもいい?」
一朗は思わず飲んでいたお茶のペットボトルを落としかけるが、正面に座っている咲の方を見ると、大きく見開かれた目は恐る恐る彼を見つめていた。
「勝手に人の家に住み着いているのは、お前だろ?」
「そうなんだけどさ・・・一応許可をもらいたいって思ったんだ・・・一朗には。あの・・・チャーハンすごくおいしかったから・・・」
はぁ~とため息をついて一朗は肩をすくめながら、畳に座り込んだ。引っ越しの疲れもあり、そのまま壁にもてれながら大きなあくびをした。なんとか脳に酸素を送ろうと体が必死に反応しているのかもしれない。
「勝手にしろよ。ただし俺に迷惑かけるんじゃないぞ!」
「はーい!ありがとう~~、一朗~~」
先程までのしおらしさはどこへ飛んで行ったのかと、つっこみを入れたかった一朗だが、もうその元気は残っていない。
そんな彼とは正反対に喜びを
寝ころびながらそのダンスを見ていた一朗はぼそっとつぶやく。
(リンボーダンスじゃなくてビンボーダンスか・・・・)と。
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