パスカルは『パンセ』の中で言いました。
《人間は正しいものを強くは出来なかった。だから強いものを正しいとしたのである》
この言葉は若き日に出会って以来、ずっと考え続けています。
年を取った今、人間には正しさなど無いのだ考えるようになりました。
ユークリッド幾何学の正しさの他に、非ユークリッド幾何学が成立したように、人間は「正しさ」を規定出来ないのだと。
作者さんは戦争の悲惨、冷酷の向こう側にある何かを描こうとしている感があります。
それは一面から追い込む理不尽さとどこまでも悲しい世界でありながらも、人間という存在が持つ曖昧さ、揺らぎを照らすかのようなものを感じます。
『ひかりごけ』のブラックな様相の奥にあるどうしようもない悲しみと「何か」。
愛する者の喪失と、尚も自分の道を踏みしめることの不条理と「何か」。
まだこの作品が進むのかは分かりませんが、今後を楽しみにしております。