魔導学校編

1話 入学ってワクワクするけど緊張するよね

世にも恐ろしい四天王。

人類を脅かす絶対的な脅威。

人を誑かし陥れる悪魔、その全てを統べる王。

奪い、暴れ、惑わせる妖怪達を治める妖の長。

人を嫌い、宝玉と龍を守り続ける龍の守護者。

謎に包まれ、宝と魔物で埋め尽くされた迷宮の主。


人類は、勇者を待っている。

かの四天王を踏破せんとする、勇敢なる英雄を。


………そして

その勇者を待っているのは人類だけではなかった。



「ッしゃァ!

見ろやこれ完璧だろ!」


禍々しい角を魔法で無くし、猫のように縦長の瞳孔も、まるで宝石のような紅色の瞳に大変身だ。

大きく蝙蝠のような翼は背中の中に仕舞い、黒く豪華な衣装も白く綺麗な服装へと着替えていた。

少し尖った耳が気になりはするが、人間と遜色ない姿へと変貌している。


そう、これが魔王である。


王都の魔導学校へ行く事にした四天王達。

その日から少し経ち、ちょっとずつ学校へ入学する為の準備をしていたのだ。

入学試験の手続きに、自分が居ない間の仕事をどうにかするかの試行錯誤、身分の偽造…etc

主に仕事をどうするかという所で時間がかかったが、大樹と快夢は事情を幹部にある程度教え、仕事の引き継ぎをしてもらった。

大ブーイングだったらしいが、万が一にはすぐ戻ってくるからと押し切った様だ。

洋和は龍の隠れ里への扉を閉ざし、莱夏はどうせ奥まで誰も来ないからと迷宮ダンジョンをオートモードにした。

それぞれ、行く準備はバッチリである。

そして今は、入学試験に向けての姿の試行錯誤中なのだ。

そのままの姿で行けば、四天王が来たとか魔族が攻めてきたとかと大騒ぎになる事は目に見えている。

なので、人間のフリをするため色々と魔法で誤魔化している最中なのだ。


「おー、悪くない悪くない。

やっぱり魔法上手いね、大樹」


そう、既に人間へ変身済みの洋和が褒める。

洋和は龍人と呼ばれる龍の要素がある人型の種族だ。

本来であれば角や尾がある筈なのだが、ローブを着る時に邪魔になるので、既に人間化への魔法はマスター済みである。

流石、四天王一魔法が上手い存在なだけはある。


「ん〜……上手くいかねぇなぁ…

このままじゃダメ?」


「いやダメだろ。

お前が一番目立つだろ」


人間化の魔法が一番苦手な快夢が大苦戦中だ。

額から角が生えている鬼の快夢は、一番隠さなければならない存在である。

耳はエルフの様に尖っているし、目も瞳孔が鋭く縦長だ。

魔法はある程度使えるのだが、色々雑な快夢にとっては魔力の操作や出力がとても難しいらしい。

まぁ、魔法に頼らずとも肉体でどうにかなってしまうのが恐ろしいところだが。


「快夢、全身に満遍なく巡らせるイメージでやってみて。

今快夢は額に魔力が集中してるから」


「んむむ〜っ」


「頑張れ快夢〜」


3人のような大きな人外的特徴が無い莱夏は、のんびりジュースを飲みながら待っている。

ほぼほぼ人間と大差がないので、制服を着て終わりだ。

魔法の必要も無い為、快夢からとても羨ましがられていた。


「よっ!」


ポンッ!と小気味いい音が聞こえた。

すると、快夢の額に鎮座していた二本の角は綺麗さっぱり消え去っていた。

耳も人間のように丸く変化している。

鋭い爪や瞳孔は変わっていないが、まぁ及第点だろう。


「やった〜〜〜〜〜!」


「おめでと〜」


「長ったなぁ」


「よかったぁ〜〜

俺だけお留守番かと思ったぁ」


安堵し、胸を撫で下ろす快夢。

一人だけ人間化が出来ずに、置いていかれてしまうと不安になっていたみたいだ。


「よしゃ、これで魔導学校行けるな」


「試験あるって言ってんだろ。

実技と筆記」


「俺らが落ちるようならもう誰も入れんだろ」


四天王すら落とされる魔導学校の試験、なんて洒落にもならない。

何百年もの間君臨し、力だって誰にも負けない。

入学首席どころか教師以上だろう。


「どうなるかわかんないだろ。

特に快夢と莱夏」


昔から勉学が得意じゃない二人だ。

暗記や計算が得意じゃない快夢、地頭はいいがムラっけがある莱夏。

実技なんかは心配していないが、筆記が特に心配である。


「大丈夫だろ、多分」


「ほんとかよ……

てか、お前ら目的分かってるか?」


溜息をつきながら、この計画の話を切り出した大樹が問いかける。


「え?青春することじゃねーの!?」


驚く莱夏。

ギコギコと動かしていた椅子から転げ落ちそうになる。


「それもあるけど!

一応、第一の目的は《勇者》を見つける事だろ!」


そう、大樹がこの話を出したのがこれだ。


王立魔導学校。

優秀な魔道士を育成する学校なのだが、実はそれだけでは無い。

長年現れていない《勇者》を育成するという話が出ているようなのだ。

その為、今年の入学試験参加者は過去ダントツで多いらしい。

そりゃあ、自分の子が勇者になんてなったらその一族の名も上がるというものである。

それだけでなく、我こそが勇者の素質があるという者も続々集まっているようだ。

こういう話があるため、偵察に行くという体で幹部に話をしたので、大樹と快夢は許されたのだ。


「だから、俺らも魔導学校へ行こうって話なんだよ。

分かったか?」


「青春する為じゃ無かったのか…」


「いやまぁ、どの道暇だから行くんだけどな?

楽しそうではあるし…」


正直、望み薄だ。

学校の教育程度で勇者が生まれるとはあまり思っていない。

そんな事で生まれるようであれば、もうとっくの昔に勇者は現れているだろうし、人類程度の力を教えたとしても四天王に勝てる人材が育つと思えない。

……だが、しかし。

万が一、万が一がある。

あのクリスマスの日から一度も姿を見せていない神や、奇跡などという不確定要素が重なったら、ありえない事がありえてしまうかもしれない。

人類の、勇者の礎となる為に配置された、ボスキャラ。

……万が一、勇者が生まれるようなことがあれば。



元々は人間だが、今は違う。

生命に手をかけることも、何かを壊し奪うことも、心を痛めることもない。

もし、親友達に手を出されるようなことがあれば、然るべき対処をせざる負えない。

友として、四天王として。

……まぁ、そんな事は無いだろうが。


「んで、いつだっけ。

試験の日って」


そう快夢が問いかける。

人間化が出来たことで、行ける事が確定したのでウキウキだ。


「概要の紙渡したはずなんだけどな??

明後日だよ、明後日の朝」


明後日の朝に、王都の魔導学校で開始するらしい。

手続きの際に受け取った、名前入りのプレートを忘れないように、と。

こっちの世界では、四人は別の名前で過ごしている。

四天王としての名前を、お互いに決めていたのだ。

しかし、手続きの時は本名、もとい人間の時の名前で提出した。

大樹の手にあるプレートには、ダイキ・クロダと書いてある。

まるで、入学式の時に渡される名札の様だった。

しかし、よく見ると魔力が込められている。

これで本人かどうか識別をするようだ、よく出来ている。


「ほんじゃ、明後日に王都集合?」


「なわけ。

くれんだろ」


そう、大樹が莱夏を指さす。


「俺の迷宮ダンジョンをタクシー代わりにすんな。

いや迎え行くけどさぁ」


「じゃあいいだろ。

明後日、朝頼むぞ」


「あいあい」


気だるげに、手の平をヒラヒラ揺らす莱夏。

胸を高鳴らせる四人。

明後日の試験の日、また会おうと解散をしたのだ。


……そして時が少し経ち、明後日。


…王都の路地裏、誰も見ることの無い暗闇の白レンガの壁から扉が現れる。

紅く、アンティーク調の扉は、ギィィ…と古く軋む音を立てて開いた。


「ここら辺でいいだろ」


中から出てきたのは莱夏だ。

当たりをキョロキョロと見回し、誰にも見られていないか確認をする。


「大丈夫そう。

おkおk、出てこいおまえら」


手をクイクイと合図し、中の3人を誘導する。


この扉の先は、『深紅の大迷宮スカーレットラビリンス』に繋がっている。

正確に言うと、迷宮の最深部……莱夏の部屋に繋がっているのだ。

中からぞろぞろと出てくる四天王。

流石に見られたらマズイので、人目の付かない路地裏に出てきた。


「学校ってここの近く?」


「大樹の地図だとここら辺のはず。

……お、あれじゃね?」


指を指した先には、大きな建物が鎮座していた。

まるで英国のチャペルの様に円錐な屋根で、大きな鐘が備え付けられている。

それを取り囲むように、校舎らしき建物が並んでいるのだ。

流石王都の魔導学校だと思えるほど大きく、広い所だ。


「おぉ〜!

中々にデカイなここ!」


「あ、生徒っぽい奴らがぞろぞろ居るで」


ギラギラとした気合いのある目をした者、両親から応援を受ける者、おどおどと緊張する者……それぞれではあるが、入学試験に挑む人間達だ。

しかし、人間だけではなく、エルフやドワーフなどの亜人族デミヒューマンも参加するみたいだ。


「中々に大人数だね」


「いくぜいくぜ!」


飛び出す快夢。

楽しみな気持ちが抑えきれないみたいだ。

試験生達の群れに飛び込んでいく。


「あっ、快夢!」


「俺らも行くぞー」


「もうグダグダじゃねーか!」


快夢に続くように飛び込んで行く3人。

試験生達は、ここに四天王が紛れているだなんて夢にも思わないだろう。

波に流されるように、受付へと進んで行った。


……


「それでは、名前プレートの提示をお願いします。」


受付嬢にそう告げられる四人。

無事受付へと進む事ができ、本人確認をされている最中だ。

何百年も生きてきて、もう緊張する様な歳でもないのに少しドキドキしてきた。


「よ、よろしくお願いします」


声がちょっと震える魔王。

魔界の民に向けて演説する時より、何故か異様にドキドキする。

プレートを渡す時、手が触れてしまって死ぬかと思った。


「……はい、ダイキ・クロダ様ですね。

試験番号は603です、頑張って下さい」


そう言って、603と番号が書かれた腕章を渡される。

いよいよ本格的に試験らしくなってきたな、と思いながら腕に付ける大樹。

洋和は604、快夢は605、莱夏は606と振り分けられた、どうやら来た順らしい。


「それでは、試験会場へとご案内します。

こちらへどうぞ」


受付嬢が四人を案内する。

着いた先には、おそらく試験に挑むであろう人間達が沢山居た。

ここに集められているのだろう。

そう考えていると、薄紫色をした綺麗な水晶玉を渡される。

中はまるで、星が舞っているようにキラキラと輝いていてとても美しい。


「今皆さんに配布したその水晶は、魔力測定水晶という物です。

その水晶に触れ魔力を込めると、皆さんの魔力を数値化したものが水晶に表示されます。

その結果により実技試験の組み分けを行いますので、くれぐれも不正行為の無いようにお願い致します。」


試験官の説明を聞き、物珍しそうに見る快夢と莱夏。


「ほへー、そんな便利なもんがあるんだなぁ」


「これは俺の城でも使ってた。

魔力の数値化って結構便利だからな」


魔界でも、悪魔達にこの水晶を使って階級分けの指標にしているらしい。

上質な水晶だと、かなり多くの魔力を測定できるそうだ。


「では、早速初めてください」


試験官がそう指示すると、一斉に測定を始める。

これも試験結果に反映されてくるので、皆全力でその水晶へと魔力を込めていく。


《452》

《290》

《300》……


周りの試験生達の水晶にそう表示される。

総量を知り喜ぶ者も居れば、この程度かと落胆をする者も居た。


《6800》


「……」


四人の隣の少女の水晶にはそう表示されていた。

しかし、喜ぶわけでもなく、ただ無表情にその水晶を見つめていた。


「おっ、ちょっと凄い」


勝手に覗き込んだ大樹がそう呟く。

それに反応し、チラリとこちらを見たが、すぐに視線を戻してしまった。


「てか他が雑魚いんだろ。

俺もぼちぼちやってみよ……」


そう言い、莱夏が水晶に魔力を込める。

四天王の一角の魔力総量だ、きっと凄いに違いない。

それを見た試験官や周りの試験生達が驚いてしまうかな……ふふ、格の違いを見せつけ


ッバキィィィィン!!


……



魔力を込めた瞬間、水晶玉が爆発するかのように砕け散ってしまった。

唖然とする莱夏、それを眺める大樹、洋和、快夢。

周りの試験生達も、突然の爆発に驚いた顔でこちらを見つめてくる。

手の中に残された破片を、ただ呆然と眺めるしかできなかった。


「……っ…」


「…んっ……く…」


「アーーーーーッハッハッハハハハッハハァァァァッwwwwww!!!!!!」


堪えきれなくなり、大声で笑い散らす大樹。


「はははははははっっ!!!!」


「ゲホッ!ゲホッゲホッ!アッハッハッww!!!」


それに釣られる様に笑い出す洋和と快夢。

莱夏はまだ理解ができていない様で、笑う3人をポカンと見つめている。


「えっ、は????

な、何???」


「お、おまッ、お前wwwwww

魔力多すぎて弾け飛んでんじゃねぇかwwwwww」


腹を抱え、笑いながら砕け散った水晶を指差す大樹。


「お、多すぎ?」


「はーっ、はーっ…

お前なぁ、人間用の水晶なんだからそりゃ上限あんだろ。

俺らが全力で込めたらそらそうなるわバカww」


そう、水晶が割れてしまったのは、不良品だからでも事故だからでもない。

純粋に、莱夏が魔力をのだ。

水晶は込められた魔力を内包しきれず、そのまま爆散してしまったという訳だ。


「そ、そんなぁ……」


「てかお前、俺らん中で一番魔力多いんだからそーなるだろ。

ちょっとは考えろよ」


何百年もの間、『深紅の大迷宮スカーレットラビリンス』を一人で回し続けている莱夏の魔力総量は、四人の誰よりも多い。

魔法が得意な洋和でさえ、莱夏には魔力総量で勝てないのだ。


「何事ですか!」


騒ぎを聞きつけた試験官が走ってくる。


「え、えと……

こ、壊れちゃったん、ですけど…」


まるで、物を壊してしまったことを親に伝える子供のように怯えながら報告する莱夏。

砕け散った水晶を見て、信じられないという顔をする試験官。


「……何か不正を」


「ち、違う!違います!

ただ魔力を込めたらこうなって…」


実際そうなのだが、この状況だとどう言っても言い訳にしか聞こえない。

パッと見、不正をして数字をあげようとしたら割れてしまったみたいだ。


「…分かりました。

不良品の可能性もあるので、新しい水晶でもう一度測定を行ってください。

もう一度割れた場合は別の処置を取ります。

いいですね?」


怖い顔で念押しをする試験官。

次は無いぞという事らしい。


「はい…はい……ありがとうございます…」


ペコペコと謝る莱夏。

それを傍で見ながら、笑いをこらえる3人。

人の不幸は飯の種、酷いお笑い草だ。


「さて、失敗例を見たから俺らはちゃんと調節します」


そう言って、魔力を込める大樹。


《500000》


「っしゃオラ」


水晶に表示された数字を見てガッツポーズをする。

それでも今測った中で一番多いのだが、砕け散らないだけマシだろう。


「あ、上手い」


「どうよ、これが魔王様の実力よ」


「ちょいビビって少ししか込めなかった所がまたお前らしいわ」


「ぶっ殺されたいんならそう言えよ」


「喧嘩しないの。

それじゃあ俺もやっちゃおうかな」


続いて洋和も魔力を込める。


《998000》


なんと脅威の九十万台だ。

この水晶の上限はピッタリ100万なので、砕け散るギリギリである。


「ふぅ、こんなもんかな」


「おぉ〜!

よくお前チキらなかったな!」


「魔力操作は得意だし」


嬉しげに話す洋和。

魔法が得意なので、魔力量の調節もお手の物だ。

その辺はとても器用に思える。


「じゃあ次俺!」


元気よく快夢が手を上げる。


「うわ心配」


「快夢、ちょっとだぞ、ちょっと」


「分かってるってもー」


友人達に小言を言われ、むくれながら魔力を込める。

少しづつ…少しづつ…


パリンッ


「あっ」


「「「あ」」」


……水晶にヒビが入ってしまった。

込めた魔力量が少し多かったのだ。


「うわー!やっちゃった!」


頭を抱え落ち込む快夢。

魔力総量は一番少ないが、それでも水晶に収まらないほどはある。

しかも魔力操作が雑なのでうっかり多くなってしまった。


「まぁまぁ、ナイストライナイストライ」


「爆発させるよりマシだろ」


「なんでお前ら俺に厳しいの?」


励ます2人と不満を感じる莱夏。

またもや試験官に詰められ、莱夏と快夢は再測定を受けることに。

今度は割ることも無くキチンと測定する事が出来た。

……2人ともビビりすぎて

《5000》

《3004》

とかしか込められなかったが。


しかしながら、無事測定は完了。

次は、組み分けが出来次第実技試験だという。

四人は試験官に連れられ、試験会場まで進んでいったのだ。

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ボスキャラだって暇してる〜幼馴染四人、異世界で四天王やってますけど勇者が全然来ないので王都の魔導学校行ってみます〜 硝華 零 @syouka0

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