霊か病か、病なら病名を知りたい

遠藤良二

霊か病か、病なら病名を知りたい

 最近、僕は誰もいないところで人の声が聞こえる。何だろう? 霊の仕業か? というか、本当に霊はいるのかな。霊にも種類があるみたいで、地縛霊・生霊・言霊・守護霊など、たくさんあるらしい。インターネットで調べてみたら出てきた。


 このことを友人の山岸玲奈やまぎしれいなに話してみた。(怖がるだろうか)と思った。「盛文もりふみ、怖い話ししないで」(案の定だ)。


 今、僕らはファーストフード店にいる。たまに一緒に来ているけれど交際しているわけではない。お腹が空いていてなおかつ誘いやすいので玲奈に声をかける。僕の苗字は斉木さいきといい、二十二歳。玲奈も同じく二十二歳。僕と彼女は中学一年の頃から交流がある。九年間くらいの付き合いだ。


「どうしたの? 急に」 玲奈は怪訝そうな顔をしている。「わたしがそういう系統の話し苦手なのしってるでしょ!」 怒られてしまった。「ごめん、もうしないよ」 玲奈は「話が途中で気になるから話してよ!」 と言うので話を続けた。


「実はね、最近調子もよくないし、周りに誰もいないのに声が聞こえるんだ」 玲奈は何も言わずに頷いている。そして、喋りだした。「霊かどうかわからないな。でも、そういう病気があるのは知ってるよ」 僕は玲奈の意外な発言に食らいついた。「え! 何ていう病気?」 彼女は考えている様子。でも、「うーん、ごめん、思い出せないネットで調べてみるといいよ。あ、でも調子悪いんじゃ、調べるのも大変か。わかった、代わりに調べてあげる」 そう言って玲奈は調べ始めた。「あ! 出てきた。幻聴だって」 僕は(聞いたことある言葉)だと思って、「何ていう言葉で検索したの?」 と訊くと、「誰もいないところで人の声が聞こえるって入力したよ」「なるほど」


 玲奈は難しい表情をして、「病院に行ってみたら?」 と言った。「何科だ?」「心療内科って書いてあるよっていうか、盛文、表情が暗いよ。大丈夫?」 そう言われて僕の気持ちは更に暗くなった。「大丈夫だ、生きてる」 そう言うと玲奈はクスッと笑ってこう言った。「そりゃあ、生きてるでしょうよ」 フフンっと僕は鼻で笑った。「調子よくないから帰って横になるわ」 玲奈は優しい口調で、「無理しないでゆっくり休んで。明日も仕事でしょ」 でも、(こんな調子で仕事にいけるのかな……)と思った。 思ったことを言ってみると、「行けないくらい調子悪かったら休んだら?」(簡単に言うんだな)「僕の代わりは今はいないんだ。だから、無理してでも行かないと」 玲奈は、「うーん……。無理かぁ、あんまりオススメ出来ないけどそういう時もあるよね」 僕は、「そうそう、仕方ないのさ。病院は明日出勤したら有休を取るよ。明後日くらいに」


 僕は玲奈と別れて自分のアパートに戻り、着替えもせずにベッドに横になった。(うー……具合い悪ぃ)と思った。何だかイライラする。これは、霊の仕業じゃなく、どうやら病気っぽいな。食欲もないし。というか、意欲が低下している。なぜだ、僕は悪いことは何もしてないぞ。罰があたったとは思えない。具合が悪い原因を知りたい。眠気もないし。


 翌日。今日は昨日より調子が悪い。でも、仕事に行かないと……。大事な会議がある。不意に消えたくなった。自死というのか、自殺というのか、とにかくいなくなりたくなった。何でこんな状態になったんだ。


 仕事の支度をするのも面倒で仕方がなかった。無理矢理体を動かし、シャワーを浴びた。体を洗い、洗髪した。浴室から出て、体を拭いた。まだ、三月だからか寒い。風邪引かないように急いで拭き、スーツに着替えた。怠い……。また、聞こえてきた。


ナンデイキテルガンバレシヌナ


 前向きなものから後ろ向きなものまで聞こえてくる。これは早く病院に行かないとやばいかもしれない。アパートから一番近い心療内科はどこにあるんだろう? インターネットで探してみた。 見付けた! この町にもある。でも車の運転大丈夫だろうか。少し不安。 出勤したら部長に話して明後日有休取る旨を言おう。


 午前九時前に職場に着いて部長のところに行った。「おはようございます」「おう、おはよう! 何だ、冴えない顔をして」「実は具合いが悪くて……」 僕は今までの経緯を話した。すると部長は、「今日は大丈夫なのか?」「今日と明日はがんばります」「そうか、わかった。有休の手続きしておくから」「ありがとうございます」 そう言って僕は自分の仕事に戻った。でも、集中できない。会議が終わるまでがんばらないと。僕しかいないんだから。この「僕しかいない」という考えが後々の体調に悪影響を及ぼすことになるとは知るよしもなかった。


 帰る頃にはクタクタになっていた。会議ではろくな意見も言えず、話を聞いてばかりいた。発言をするのが苦なら、せめて周りの職員が言っていることをメモっておこう。  会議が終わってから同僚の石橋敬之いしばしのりゆきは、僕の傍に来て言った。「斉木、何か元気なくないか?」(バレたか……でも、石橋には話しておくか。同じ時期に入職してるから) 僕らは役所で働いている。「実は……具合い悪くて……」(言ってしまった)「え! 大丈夫か? どこが調子悪いんだ?」(やはり、石橋に心配かけてしまった)「友達に検索してもらったら、幻聴っていう症状らしい」「幻聴? 病名は何ていうんだ?」(結構、突っ込んで訊いてくるな)「そこまではわからない。明後日、病院に行って診てもらう。このことは部長と石橋しか知らないから、他のやつらには言わないでくれ。石橋だから言ったんだからな、同期で入職していると思って」 彼は、フフッと笑った。何がおかしいのだろう?「そんなことイチイチ言わないよ。そこは信用してくれ」(よかった)と思いお礼を言った。「ありがとう、わかった」


(さて、帰るか……。石橋との話も長くて疲れた。更に悪化した気がする) そうは思っても心配してくれて話しているわけだから無下にはできない。 早く帰りたくて赤信号を見逃して通過してしまった。そこで運悪くパトカーが走っていた。(うわ、見られたか!?) サイレンが鳴った。あちゃー、捕まるー……。「前の車止まりなさい」そう言われて(逃げようか)とも思ったが、逃げたら余計罪が重くなると思い、仕方なく停まった。そこから警察官二人とのやり取りが始まった。(こんな具合が悪い時に……)と思った。


 結局、いろいろ話して点数が引かれたのと、罰金が科せられた。体調は悪いし、警察には捕まるしで、踏んだり蹴ったりだ。だからイライラする。(畜生!)と思った。近いうちに警察署に行って罰金の支払いに行かないと。


 食欲がないので、夕食はぬくことにした。本当は食べた方がいいんだろうけれど、一食くらいぬいても大丈夫だろう。食べたくないから食べない。


 それと今夜眠れるだろうか。明後日は休みとはいえ、一睡もできないのは問題だ。更に具合いが悪くなるだろう。とりあえず帰ったら着替えて横になるか。眠れなくても横になってるだけでも違うかもしれない。また、聞こえてきた。


トモダチヨコニナレハヤクシロ


 何なんだ、一体。気持ち悪いというより、怖い。(早く診てもらいたい)という思いが徐々に強まってきた。 思った通り眠れない。今の時刻は午後十一時三十分過ぎ。布団に入って数時間が経つ。だんだん横になるのも嫌になってきた。少し起きてみよう。(うー……。具合悪い)玲奈は起きているかな……。(LINEしてみよう)と思いスマホをテーブルの上に置いてあったので手に取った。玲奈は本名で登録している。僕は偽名で、ひぐま、という名前にしている。早速LINEを打った。<玲奈、起きてる?> 少ししてLINEがきた。<どうしたの? 寝てたよ> あちゃー、寝てたか、やっちまった。<ごめーん、あまりにも具合い悪くて寂しいし思わずLINEしちゃった><眠れないの?>(何でわかるんだ)と思った。<うん、眠くもないしね>(LINEして悪かったかな)<今から来る? ちょうどわたしも明日休みだし。話しきくよ>(玲奈は優しいな、何でこんないい子に彼氏がいないんだろう)<今から行くね。寝る邪魔してごめん><いいのいいの。お互い友達少ないしさ><ありがとね>


 僕は横になっている時の格好で行くことにした。財布とスマホを小さい布の入れ物に入れて黒いジャンパーを羽織って外に出た。三月だけど雪はもうない、でもまだ寒い。ドアに鍵をかけてから、自分の黒い軽自動車の鍵を開け乗った。エンジンをかけ、数分アイドリングをしてから発車した。十分くらい走っているとまたパトカーが走っていた。今度は捕まらないようにしないと。一旦停止と信号を見逃さないようにしないと。そう思いながら走っているとパトカーは右折した。僕は直進だから向かう方向が違うからよかった。捕まる心配もないだろう。


 運転中にまた聞こえてきた。


ネロツカマレオンナカ


 気持ち悪い内容ではないが、聞こえてこないのが一番だ。本当に病気なのかな。霊の仕業ではないのかな。まあ、明後日医者に訊いてみよう。医者に霊の仕業ですか? 何て訊いたら笑われるだろうか。笑われるの嫌だな。玲奈に相談してみよう。


 そうこうしている内に玲奈の住むアパートに着いた。彼女も車を持っているので所定の位置に停めてある。なので僕の車はいつものように路上駐車した。いつも路上駐車しているので大丈夫だろう。捕まらないと思う。因みに玲奈の車は赤い軽自動車、可愛い。車から降りてブザーを鳴らした。ブーッとうるさい音が聴こえた。中の様子を窺っていると、玲奈が玄関に向かって歩く音が聴こえた。そして、「はーい」と声が聞こえた。「僕だけど」と言うと、鍵を開けてくれた。ゆっくりとドアを開けながら、「盛文?」と用心深い感じの声が聞こえた。「うん、僕だよ。盛文」「こんな時間だから警戒しちゃった、それに……いや何でもない、入って」「うん、ありがとう。話し途中だったけど、何だったの?」 玲奈は黙っていて、少し経ってから、「話したくない過去だから訊かないで」(なんだろう? 尚更気になる)でも、「わかった」と答えた。話したくなったら自分から話すだろう。そう思い、しつこく訊くのはやめにした。


 僕は玲奈に質問した。「僕の幻聴っていうのは、霊の仕業じゃないかなぁ?」 僕は半信半疑で尋ねた。「うーん……。霊の仕業だとしたらあまりにも現実的じゃないよね。それに、もし、霊の仕業だとしたら行くのは病院じゃないところだよね」 僕は(え?)と思った。「病院じゃないところって?」 玲奈は考えているような表情だ。「例えば、お寺や神社とか」(なるほど)玲奈は続けて喋った。「でも、それって現実的じゃないよね」 同じことを二度言った。(まあ、確かに)心の中で呟いた。黙って玲奈を見つめている僕に、「わたしの意見に賛成できないの?」(そうだね)と言おうと思ったが、反対意見を言ってもめたくないので、「いや、そんなことはないよ」 と言っておいた。「なら、余計なことは考えないで病院に行くことだけを考えるべきよ」 相変わらず強気な玲奈。「なるほどねえ、病院かあ。うん、わかった。病院に行くことを考えるよ」 彼女は笑みを浮かべながら頷いていた。


 玲奈は僕の顔を見て言った。「顔色もよくないし、調子もよくないんでしょう? 明後日の朝、何時に行くつもり?」(あ!)と心の中で言った。「考えてなかった。というか、具合悪くてそれどころじゃなかった」 玲奈の表情は半ば呆れているように感じられた。(何やってるんだよ)とでも思っているのかもしれない。でも、玲奈が今から言うことはそう思ってはいないと思える発言だ。「ネットで調べてあげるよ」「悪いな」


「盛文が行こうとしている病院は、九時から受付だわ。予約は必要ないみたい」「わかった、ありがとう。因みに明日は何ていう医者?」「うーんと、ちょっと待ってね。あ、あった。明後日は金曜日だから、森下っていう先生みたい。女医かな? 森下灯もりしたあかりって書いてある」「そうなんだ、わかった」(いい医者ならいいけど)と思った。


 スマホを見ると時刻は一時を回っていた。玲奈は欠伸をしている。「眠い?」  僕が訊くと、「ちょっとね」 と答えた。「じゃあ、僕、帰るよ。眠いなら寝たほうがいいよ」 そう言うと、「悪いね、追い返すみたいで」 僕は苦笑いを浮かべながら言った。「そんなことは思ってないよ」 と言うと、「そう、ならよかった」  僕はゆっくりと立ち上がり、「じゃあね、話してくれてありがとな。病院行ったら結果教えるよ」 そう言った。


 出来れば一緒に病院に行ってもらいたかった。その方が心強いから。でも、そんな甘えたこと玲奈には言えない。言えば一緒に行ってくれるかもしれないけれど、彼女の都合もあるだろう。仕事かもしれないし。玲奈は配送業の運転手をしていて、男勝りの性格をしている。トラックの運転をするくらいだから気も強い。口げんかをしたことはないが、きっと玲奈には負けそう。


 明後日になり今は朝六時三十分くらい。結局一時間も寝ていない。調子は昨日と同じくらい悪いからもう少しダラダラしていよう。七時半くらいになって病院に行く支度を始めた。テレビをつけてニュースを観た。天気予報も放送されている。今日は雨の予報で空を見ると曇っている。これから降ってくるのかな。(雨なら嫌だなあ……)。僕の心はより一層暗くなった。とりあえず、服とズボンに着替えた。小さなバッグにスマホと財布を入れた。 今は八時半くらい。もう少ししたら部屋を出よう。行くのがとにかく億劫。部屋に仕事もしないでずっと横になっていたい。でも、そんなことは出来ないので仕方なくゆっくりと立ち上がり外に出て部屋の鍵をかった。ゆっくりと歩き出し、車に乗った。(はー……疲れた……)と思った。「さて、行くか……」ポツリと独り言を言った。


 目的地の病院の場所は行ったことはないが知っている。もし、病気なら早く病名を知りたいし、治療もしてもらいたい。時刻は九時を少し過ぎたところ。この町に心療内科は何軒あるのだろう。調べていないのでわからない。駐車場に車を停めて院内に入った。患者さんは既に十人近く来ていた。こんな早い時間に十人も来ているのは人気があるということだろうか。初めて来たので周りを見渡した。受付に行き、保険証を出した。受付の職員は、「初診ですね? この問診票に記入お願いします」(面倒くさい……。何でこんなのを書かないといけないんだ。医者に直接話せば済むことだと思うけど……)そう思いながら仕方なく記入していった。  名前・住所・生年月日・現在飲んでいる薬はあるか? など、十問くらいあった。(はー、終わった……。疲れた)。


 待つのが疲れてきたし、苛々してきた。なので、受付の女性の職員に訊いてみた。「あと、どれくらいで呼ばれますか?」 その女性は困った表情になった。「うーん、初診ですからねえ……。ちょっと外来に訊いてみますね」 僕は黙っていた。きっと、僕の表情は怒ったようなそれだと思う。 中年の看護師が僕のところにやってきた。そして、話し出した。「次の次ですよ。中待合で待っていて下さい」 僕は無言で中待合に移動した。老婆が独り寂しそうに座っていた。僕は少し離れた椅子に座った。


 診察室の中にいた患者さんが出てきた。若い女性だ。痩せすぎるぐらい痩せている。心の病のせいなのかな、わからないけれど。次はこの弱々しい老婆の番。看護師が声をかける。「大丈夫?」と。老婆は、「はい」と答えた。診察室のドアを看護師に開けてもらい、中に入った。暫くして老婆は暗い表情で出てきた。いかにも具合い悪そうで中待合の椅子に座った。看護師が出て来て、「さあ、病棟に行きますよ」と老婆に話しかけた。(入院するのかな?)と思った。僕も人のことは言ってられない。この調子の悪さじゃ入院になるかもしれない。


 それから少しして、「斉木さーん」と呼ばれた。そして調子が悪いことと誰もいないのに声が聞こえると話した。それと「この症状は霊の仕業ではないですか?」と言うと医師は「それは違います。病気のせいです」と言われた。病名もついて、統合失調症というらしい。初めて聞く病名だ。まあ、そもそも僕は心の病には無頓着だ。しかも入院になった。医師が言うには、開放という病棟らしい。だから、スマホも持てるし売店にも行ける。でも、院外の買い物は医師の許可が出るまで出来ないらしい。目安として入院の期間は一ヶ月と言われた。医師が言ったことはもらった紙に書いてある。


 職場や玲奈、母親にも伝えないと。父親は僕が生まれて間もなくして病死した。だから女手一つで育ててくれた。他の男とは結婚していない。


 まずは部長に連絡した。入院することを伝え、有休を全部使うことになり、後は「退院したら連絡くれ」と言われた。


 次に玲奈にLINEした。<入院になった。一ヶ月くらいで退院できるらしい> 返事は昼にきた。休憩時間だろう。<そうなんだ。仕事終わったらお見舞いに行くね> と言ってくれた。嬉しい。 最後に、母親にも一応連絡すると驚いていた。必要なものを僕の部屋から持って来てくれるらしい。ありがたいことだ。


 翌日、僕は朝から検査づくめだった。採血・採尿・頭部のCT検査など、それだけで疲れてしまった。その間に母親が来ていて検査が終わったあと病室に戻ってみるといた。「きてくれたんだ、ありがとう」 優しい母親に感謝している。すると、「大丈夫なの? 何ていう病名?」「具合いは悪いよ、統合……なんたっけ、紙を見ると書いてあるのさ」 引き出しから入院期間や病名が書いてある紙を見てみた。「統合失調症だわ」 そう言うと母親はびっくりしていた。「その病名の犯罪者がニュースに出てたよ。あんた、おかしな真似だけはしないでね」(おかしな真似?)どういうことだろう? 訊いてみると、「その人は、親を殺したの……。その病名でね」 母親は悲痛な面持ちで僕を見ている。「そんなことする気ないよ。そいつと一緒にしないでくれ」「そう……? ならいいけど」「そいつはきっと病院にも行かないで悪化したからそういうことしたんじゃないのか?」「……それはわからないけどね」「その紙見せて」 母親が言うので渡した。「一ヶ月も入院しないといけないんだ」「まあ、あくまで目安だと思うけどさ」「職場には電話したの?」「うん、した。部長と話しして、退院したら連絡する。大丈夫、クビにはならないから」 それを聞いたからか、母親はほっと肩をなでおろした。安心したのだろう。「それならよかった。もし、解雇になったらどうしようかと思ったの。病気はもってるし、使ってくれるとこないだろうって心配したのよ」「心配かけて悪いね」「ほんとだよ」


 僕はそう言われて苦笑いを浮かべた。「何か飲むかい?」 そう言われた時、一人の女性が姿を現した。玲奈だ。「お! 玲奈。来てくれたんだ。ありがとな」「こんにちは」 彼女は母親に挨拶してくれた。「何? あんたの彼女?」 すると玲奈は、クスっと笑った。僕は、「違うよ。友達だよ」「ああ、そう。わざわざありがとね。私は盛文の母です」「あ、そうなんですね、こんにちは。初めまして。わたしは山岸玲奈っていいます」 母は、荷物をロッカーに入れてくれた。「私がいたら邪魔でしょ? ゆっくりしてってね」 玲奈にそう言った。「い、いえ、そんなことないですよ」 彼女は焦ってそう言った。「じゃあね、玲奈ちゃんもまたね」「あ、は、はい!」 僕は焦って対応している玲奈がおかしかった。「笑わないで!」 僕はそう言われて真顔に戻った。「そんなに怒るなよ」「怒るよ、馬鹿にされた気がして」「そんなことないよ」


 それから僕と玲奈は三十分くらい話した。また具合悪いということを伝えると、「そっか、まあ、ゆっくり休んでね。また、元気になったら話そうね」そう言って玲奈は帰った。早くよくなって仕事に復帰しないと。玲奈ともまたお喋りしたい。よくなることだけを考えて僕はベッドに横になった。


                               了

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